「全国の焼き物産地に出向き、窯元の要望に応えたい」と話す辻人之さん=西松浦郡有田町の辻絵具店

水野旅館の観風亭。奥の高い建物が屋敷棟、左側が玄関棟。手前右が江戸末期と推定される門=唐津市東城内

■唐津市 水野旅館は登録文化財

 国の文化審議会は21日、選定保存技術に上絵具製造を選定し、技術保持者に西松浦郡有田町の辻人之(ひとゆき)さん(56)を認定するよう文科相に答申した。指定済みの重要無形文化財の保持者として、日本能楽会(東京都豊島区)会員の能シテ方、山口剛一郎さん(47)=佐賀市=を追加認定(ほか会員44人との総合認定)し、唐津市東城内の水野旅館の観風亭と門を登録有形文化財(建造物)にすることを求めた。

 辻さんは1986年から家業の色絵磁器に使われる上絵具作りに携わる。天然鉱物を使った伝統的な技術を身につけるとともに、原料の調査も手掛け、多彩な色合いと品質は窯業関係者から高く評価されている。選定保存技術は文化財保存のために欠くことのできない伝統的な技術・技能。県内から認定されたのは辻さんが初めて。

 水野旅館の観風亭は、1938年に先々代の和紙問屋が別荘として建て、53年から旅館で使用。西の浜に面し、玄関棟と座敷棟からなり、座敷棟は高床で開放的な窓から海を望む趣向が凝らされている。門は北城内にあった武家屋敷の門を73年に移築、名護屋城の部材を利用したと伝わる。おかみの立花史子さん(58)は「以前と違って古い建物を好むお客さんが最近は多く、残してきてよかった」と話す。

■「最後の化粧」精進誓う 辻さん

 京都でろくろを学んだ後、家業の上絵具製造の修業を始めたのは25歳。祖母のタカさん(110)をはじめ、父の公也さん(89)、母の恵美子さん(80)に師事した。認定の連絡を受け「上絵は焼き物の『最後の化粧』。美しく仕上げるために、これからも精いっぱい努める」と一層の精進を誓う。

 あでやかな有田焼を彩る上絵具は赤、青、黄、緑、紫、白、黒の7色が基本。色の元となる天然鉱物などの顔料の配合を変え、約80色を作り上げる。思い通りの色を出すため、顔料は100ミリグラム単位で調整する。

 同じ絵具でも、窯元が使う生地の色合いや釉薬(ゆうやく)で発色が微妙に異なる。注文に応えるため、一つの色を作るのに140回近く試作を重ねたこともある。これまでに作り上げた色は、失敗も含めて配合をデータ化して手元に残す。「失敗もいい経験。いい色を出すにはがむしゃらに取り組むしかない」

 磨き上げた技術が評価され、注文は有田にとどまらず、全国各地の焼き物産地から届く。課題は後継者の育成。認定を受けたことで「焼き物を支える面白そうな仕事があると、若い人たちが思ってくれたらうれしい」

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