■録音・録画で発覚

 長崎県大村市で昨年1月に起きた母親傷害致死事件の捜査で、長崎県警が逮捕した男性(53)に自白を強要したり、否定した内容を一方的に調書に記載したりするなど違法性が疑われる取り調べをしていたことが26日、分かった。男性の訴えに基づき、長崎地検が取り調べの様子を録音・録画した映像を確認して発覚。地検は、県警の捜査幹部に適正化を要請し、取調官は担当から外れた。【共同】

 取り調べの録音・録画(可視化)が違法捜査の歯止めになった形。裁判員裁判事件など対象を限定して義務付けられる可視化の運用拡大を求める議論に影響しそうだ。

 問題発覚後、地検は弁護人にも事情を説明。その後の取り調べは検事が担当し、県警作成の供述調書は裁判の証拠として利用しないなどの対策を取った。公判で弁護側が違法性を追及することはなく、男性は昨年5月に執行猶予付き有罪判決を受け、刑が確定した。

 事件を巡っては、男性は同居の母親=当時(88)=に暴行を繰り返し、死なせたとして傷害致死容疑で逮捕された。死因は多発外傷だったが、母親自身が転倒してできた可能性がある傷も多かったという。男性は「過度の暴行はしていない」と主張していた。

 捜査関係者によると、逮捕から数日後の取り調べで、男性は検事に「否定しているのに、取調官が見立てを強引に押しつけて調書を作る。訂正にも応じないので諦めて署名している」と訴えた。

 検事は取り調べ状況の映像を確認。取調官が「(母親の)傷は全部あんたがやったんだよ」「それを認めんば」と自白の強要と取れる発言をしていた。男性が明確に否定しても「勘違いだろう」と取り合わず、勝手に調書に記載していたことも判明した。

 地検は昨年3月、傷害致死罪ではなく傷害罪で男性を起訴。長崎地裁は懲役2年、執行猶予4年の判決を言い渡し、男性側が控訴せず確定した。

=識者談話=

■警察の体質浮き彫り

 渡辺修甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話 容疑者の説明をねじ曲げてでも、自白調書を作ろうとする警察の体質が、根深いことが浮き彫りになった。可視化は違法な取り調べを防ぐ手段ではあるが、大切なのは、警察・検察が取り調べの適正な在り方を徹底的に研修することだ。

 虚偽の自白を導く取り調べは、可視化の対象になっていない事件で起きる可能性が高い。弁護人を取り調べに立ち会わせるとともに、容疑者から録音・録画をするように請求できる制度を取り入れることが必要ではないか。

=ズーム=

■取り調べの可視化 自白の強要など違法な取り調べがないか検証したり、公判で供述の任意性や信用性を立証したりするため、状況を音声と映像で記録すること。検察は2006年、警察は08年から裁判員裁判対象事件の一部で開始。厚生労働省の村木厚子元局長の無罪が確定した文書偽造事件をきっかけに捜査・公判改革の議論が始まり、昨年5月、裁判員裁判事件と検察の独自捜査事件を対象として取り調べ全過程の録音・録画を義務付けた改正刑事訴訟法が成立した。19年6月までに施行され、全国の警察では昨年10月から試行を始めている。

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