高収入の専門職を労働時間の規制から外し、残業代を払わない「高度プロフェッショナル制度」について、連合が容認する方針に転じた。新制度を含む労働基準法改正案が次期国会で成立する見通しが強くなったが、長時間労働を助長する恐れがあり、働く人の生活を守れるか疑問である。

 新制度が対象とする労働者は、年収1075万円以上の金融ディーラーや研究開発などの専門職。労働基準法では、労働時間が1日8時間、週40時間を超えるか、深夜・休日勤務をした場合は、企業に割増賃金の支払いを義務付けているが、新制度で働く人にはこの規制が適用されない。

 連合はこれまで「残業代ゼロ法案」として労基法改正案に反対してきたが、神津里季生会長が安倍晋三首相に新制度が定めている健康確保措置を強化する修正案を示し、これを条件として受け入れる考えを表明した。

 連合の修正案では、これまで選択肢の一つだった「年間104日以上かつ4週間で4日以上の休日の確保」を義務付ける。さらに、終業から始業までの間に一定の休息を設ける「勤務間インターバル制度」、労働時間の上限設定、連続2週間の休日取得、臨時の健康診断-の四つのうちいずれかを労使に選ばせる。

 しかし、これで本当に対象者の働き過ぎを防止し、健康を守ることができるだろうか。年間104日の休日は、祝日を除いた週休2日制と同じ日数にすぎない。年1回の定期健康診断とは別の臨時の健康診断は、容易に実施できて経営側に好都合だが、経営側の抵抗が強い他の三つの措置の方がはるかに重要だ。四つを並列して選択させるのは理解できない。

 そもそも残業代は経営側にとって長時間労働の抑止力として機能しているが、新制度では深夜や早朝に働いても残業代が払われなくなるため、経営側が対象者に過大な仕事量を課すようなことがあれば、労働時間が際限なく長くなりかねない。

 長時間労働による過労死が多発し、違法なサービス残業が横行している現状では、時間に縛られず自由な働き方がしたい人の希望に応えるという新制度の理念そのものに大きな疑問符が付く。

 最も心配なのは、新制度の対象が拡大される可能性だ。年収の要件は「1075万円以上」だが、第1次安倍政権で同様の制度が提案された際、経団連は「400万円以上」を求めたことがある。新制度が導入されたら、経営側が年収要件の引き下げを要求することは十分に考えられる。

 労基法改正案は2年以上も国会審議が見送られてきたのに、連合がここで方向転換したのも、いかにも不透明で唐突な印象を受ける。傘下の一部労組からは「裏切り行為だ」と批判が噴出している。神津会長は「(新制度が)必要ないというスタンスは堅持するが、何もしないでいると健康確保措置が非常に弱いままになってしまう」と説明するが、本当に納得が得られるだろうか。

 政府は秋の臨時国会に労基法改正案を提出し、残業時間の上限規制などを盛り込んだ働き方改革関連法案とともに成立を目指すが、「残業代ゼロ」の新制度には多くの疑問があり、懸念は強まるばかりだ。決して結論を急いではならない。働く人の生活、健康を第一に考え、一から徹底的な議論をするべきだ。(共同通信・柳沼勇弥)

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