安倍晋三首相が太平洋戦争の開戦の地となった米国ハワイの真珠湾を訪問し、戦争犠牲者らに哀悼の花をささげた。過去に3人の首相が真珠湾を訪ねたとはいえ、米大統領と一緒に献花したのは初めてで、世界平和への貢献を誓う場ともなった。この日の誓いは今後、両国の行動で試される。

 真珠湾は75年前、旧日本軍が奇襲攻撃し、米軍の艦船とともに2400人もの命を奪った場所だ。安倍首相はスピーチで、犠牲者に「哀悼の誠をささげる」と述べたものの、謝罪の言葉は盛り込まなかった。

 首相は昨年4月の米議会の演説で、先の大戦について「深い悔悟」「痛切な反省」「アジアの諸国民に苦しみを与えた」と言及している。その後、日米同盟強化のために安保法制の整備にも取り組んだ。米政府の安倍政権への一定の評価が、「謝罪の言葉はいらない」という双方の事前調整につながったとみられる。

 安倍首相が「世界を覆う幾多の困難にともに立ち向かい、明日を拓(ひら)く希望の同盟だ」と訴えると、オバマ大統領は「戦争よりも平和から勝ち取れるものがある。報復より和解から恩恵を受けられる」と応じた。両首脳は息を合わせたように、日米同盟の強固な結びつきを世界に向けて発信した。

 イギリスの新聞も「日米の良好な関係は軍事増強を続ける中国への警告になる」「アジアの緊張が高まる中で時宜にかなっている」と報じており、日米両首脳の演出は功を奏したと言える。

 2人のメッセージは安全保障政策の見直しを公言していた次期大統領トランプ氏にも向けられていた。日米両国の間に“とげ”のように突き刺さっていた真珠湾の問題について、トランプ氏が就任する前に一つの区切りをつけることができたのは、外交上の大きな成果と評価できる。

 一方で、5月のオバマ大統領の被爆地広島への訪問と、その際の「核なき世界」へのメッセージと比べれば、インパクトの弱さは否めない。日米同盟強化のアピールに重きを置きすぎて、両国の政府関係者らが使う「歴史的」という言葉に過剰さも感じる。

 首相は今回の訪問を“戦後の総決算”と位置づけたい思いもあるようだ。しかし、中国からは「真珠湾に行くなら、(虐殺があった)南京にも来るべきだ」という声が出ている。韓国では朴槿恵(パククネ)大統領が辞意表明したことで、一度は日韓両政府で解決した慰安婦問題が市民の間で再燃している。

 心身ともに苦痛を強いた加害の歴史は消えるものではないだろうし、それが戦争そのものの罪の重さでもある。

 安倍首相は真珠湾を「日米の和解の象徴」と繰り返したが、長崎原爆の被爆者の一人は「日本が無謀な戦争を始めた象徴と記憶すべき。きれいな言葉でごまかしている」と批判する。多くの犠牲を出した日本人にとっても、真珠湾は苦しみの歴史をもたらした象徴であることを忘れてはならない。

 「戦後70年間に及ぶ平和国家としての歩みに、私たち日本人は静かな誇りを感じながら、この不動の方針をこれからも貫きたい」。これも首相の真珠湾での言葉である。不戦の誓いが本物かどうか。この国のこれからの行動で示さなければならない。(日高勉)

このエントリーをはてなブックマークに追加