全国農業協同組合連合会(JA全農)は28日、農家の所得向上を狙った自主改革の年次計画を発表した。農産物流通は卸をできる限り介さない直接販売を主体とし、コメの直販割合を2016年度見込みの37%から24年度に90%へ、野菜や果物は30%程度から50%超へ拡大。輸出は3年で2・6倍にする。肥料の銘柄集約などで、農家に卸す生産資材の価格を下げる。【共同】

 農業改革を進める政府の要請に沿って販売強化とコスト削減の両面で数値目標を掲げ、成清一臣理事長は記者会見で「かなり意欲的に作ったつもりだ」と説明した。ただ農家の所得がどの程度増えるかや、販売・資材部門の具体的な再編計画は示していない。政府の規制改革推進会議は19年5月までに一定の成果を出すよう求めており、進展次第で一段の改革を迫られる可能性がある。

 回転ずしチェーン「あきんどスシロー」(大阪府吹田市)の持ち株会社への出資も表明した。出資額は約40億円で、持ち株比率は3・75%。提携を強化し、小売りや外食産業とじかに取引条件を決める直接販売拡大のモデルとする考えだ。

 また農家から手数料を取る「委託販売」を縮小し、自ら売りさばく「買い取り販売」に転換。コメの買い取り販売比率を16年度の10%から24年度は70%に高める。

 コメや青果、畜産物の輸出は16年度の130億円(速報値)から19年度に340億円へ伸ばす。

 肥料は主要な約400銘柄を17年度にも10程度に集約し、飼料も製造量が少ない銘柄を2割削減。割安なジェネリック農薬(後発薬)を22年に発売し、安いトラクターの開発をメーカーに求める。この過程で資材部門の「スリム化」を進める。

 政府と与党は昨年11月に「農業競争力強化プログラム」をまとめ、事業構造の見直しをJA全農に求めていた。

【自主改革年次計画要旨】

「自ら売る」に転換/肥料、シンプル調達/輸出向け産地も整備

 JA全農が発表した自主改革の年次計画の要旨は次の通り。

 【方向性】

 一、農業所得の増大に向け、生産資材の価格を引き下げ。

 一、農業経営の安定を目的に「売ってもらう」から「自ら売る」へ転換。流通を直接販売主体の方式に見直す。

 【生産資材事業】

 一、肥料はシンプルな調達・供給へ転換し主要品約400銘柄を2017年度にも10程度に集約。インターネット受注システムを18年度以降に稼働させ、予約数量を基に最も有利な価格・工場を決定。

 一、ジェネリック農薬(後発薬)を22年発売。

 一、低コストの農業機械(大型トラクター)開発をメーカーに要求。農機を複数の農家で共有する仕組みを17年度の10チームから19年度に50チームへ拡大。中古農機の査定士育成で流通を促進。

 一、製造量が少ない飼料の銘柄を18年度までに約2割削減。原料を商社と共同購買。

 【販売事業】

 一、コメの直接販売量を16年度の80万トンから18年度は125万トンに。直販比率は17年度に47%、18年度に62%、24年度は90%へ拡大。コメ卸への出資、提携を推進。

 一、コメ買い取り販売は17年度に14%、24年度に70%へ拡大。

 一、野菜・果物の直販額は16年度の3100億円から、24年度に取扱額の過半となる5500億円を目指す。

 【輸出事業】

 一、17年度は174億円、19年度に340億円とする。うち牛肉130億円、野菜・果物135億円、コメ45億円。

 一、野菜・果物の輸出用産地を17年度に3カ所設け19年度に18カ所へ。

 一、香港・米国に産直市場など設置。各地で店舗やテナントを展開。

■農家経営安定に寄与か 事業効率化は不十分との声も

 全国農業協同組合連合会(JA全農)が発表した自主改革の年次計画は、農産物の販売方式の転換を掲げた。農家本位で改革が実行されれば、農業経営の安定要因になりそうだ。ただ、生産資材の事業効率化策については不十分との声もあり「稼げる農業」への貢献度ははっきりしない。

 JA全農の成清一臣理事長は28日、改革計画を「手を抜かずに、きちんとした議論をして作った」と語り、農家の利益になると強調した。

 計画の柱の一つは直接販売だ。農産物の流通では卸売会社などを経由すると、その段階ごとに手数料がかかり、小売店や外食店での価格に上乗せされる。流通を簡素にすることで浮いたコストが出れば農家の手取りに反映するほか、店頭での値下げとして消費者に利点が及ぶ余地も出てくる。

 ただ、JA全農は好みが変わりやすい外食業界など、取引先の需要を機敏に捉える必要がある。卸は取引縮小の波にさらされ、大手コメ卸役員は「競争激化や業界再編につながる」と予想する。

 農産物の販売を農家がJA全農に委託する手法から「買い取り販売」への移行も目玉だ。売れ残りのリスクが農家からJA全農に移るため収入の変動が和らぐ。JA全農にとっては在庫が膨らむ損失を避けるため、安定した取引先を確保することが必須になる。

 一方、農家の経営に直接効きそうなのは、肥料や農薬といった生産資材価格の引き下げだが、「算定中」として、計画で値下げ額や経費節減額の数値目標は示されなかった。自民党の小泉進次郎農林部会長らが求めた農産物販売部門への配置転換など、大胆な人事・組織刷新に関しても「もっと深掘りできたはずだ」(農林水産省幹部)との不満が漏れている。

 JA全農が利益の6割を稼ぐ生産資材事業への切り込みは痛みを伴い、農薬などの値下げは「業界再編や規制緩和が必要」(幹部)という。だが、政府と与党は計画実行を監視する構えを見せており、農協改革の圧力は再燃の火種を抱える。

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