和解勧告を受け基金案を受け入れない姿勢を明確にする漁業者側の馬奈木昭雄弁護団長(中央)=佐賀県庁

 なぜ漁業者の願いは届かないのか。1年以上の議論を尽くして長崎地裁が27日に改めて出した和解勧告は、国が開門しない前提で示した基金案の踏襲だった。漁業者側は開門の議論すら許されず「極めて遺憾だ。怒りに震えている」とする一方、営農者側は「望ましい解決策」と評価。双方だけでなく漁業団体までも分断した基金案は、漁業者側の議論拒否で事実上、実現はあり得ず、有明海再生に向けた和解協議は深い霧に覆われた。

 「公正、中立の裁判所とは信じられない」。国と営農者側だけの意見に沿った和解勧告に、漁業者側の馬奈木昭雄弁護団長は怒りをあらわにした。「われわれは開門した場合の問題点を含めて議論してほしいと言っているだけ」と強調し、開門しない前提を押し通した裁判所を「司法の自殺行為」と非難した。

 開門問題には中立であるはずの国も、訴訟では開門に後ろ向きな“無気力相撲”と指摘されてきた。協議に参加する漁業者の平方宣清さん(64)=藤津郡太良町=は「私たちの声には耳を傾けず基金案に終始した」と不信感を募らせる。勧告が基金案を「再生に向けた取り組みの加速化を図る」と評価していることに対し、大鋸武浩さん(46)=太良町=は「国の説明をなぞっているだけ」と裁判所の見解に首をかしげた。

 基金案の受け入れを拒否した佐賀県の山口祥義知事は、開門しない前提が変わらなかったことに「違和感がある」と感想。訴訟当事者だけでなく漁業者同士の分断を憂慮し、有明海の再生を願う漁業者の気持ちを「『何で思いを分かってくれんやろか』と本当に寂しくなる」と代弁した。

 福岡、熊本両県の漁業団体が賛成に回る中で、反対を貫いた佐賀県有明海漁協。勧告では付記が「完全に拒否する趣旨ではない」と捉えられたことに関し、徳永重昭組合長は「基本的には受け入れないという思いを文章にしただけ。訴訟当事者間で結論が出た場合には従うが、裁判所の解釈にまで意見を述べることは難しい」と困惑した。

 一方、長崎県庁で会見した営農者側の山下俊夫弁護団長は、和解勧告を評価した上で、漁業者側に対し「内容を真摯(しんし)に検討して受け入れてほしい」と求めた。基金案に間接強制の制裁金を組み入れることは、営農者側が和解協議で提案していた。「開門しない前提で、本件紛争を一挙に解決したいという裁判所の強い意志の表れ。この訴訟を和解で解決するには、これ以外にない」と力を込めた。

 長崎県の中村法道知事は報道陣に対し「関係者に再度検討してもらい、有明海の再生に向け、一定の方向性が得られるようにしてほしい」と期待した。

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