お正月に欠かせない「おせち」。地域や家庭ごとにお重の中身はさまざまだ。江戸期より約350年続く「色鍋島」の伝統を誇る今泉今右衛門家。有田の由緒ある窯元ならではのおせちが伝わる◆お膳には、縁起物の尾頭付きの生イワシが1匹添えられる。子孫繁栄の願いと贅沢(ぜいたく)を戒める意味がある。一の膳にはブリの刺し身に百尋(ひゃくひろ)と呼ばれる鯨の腸、からすみ、ナマコ酢、イクラ、数の子、黒豆、二の膳には筑前煮や紅白かまぼこなどが並ぶ。火を通さない生ものが中心で、代々のしきたりという◆雑煮の具も千切りのゴボウと昆布のみ。博多育ちの13代夫人の泰子さん(79)は1968(昭和43)年に嫁いできて、「その質素さに驚いた」と話す。博多のおせちは豪華で、雑煮もエビにブリにと、ふんだんに具を入れる。昔、窯元の年末は勘定の清算や職人との契約で忙しかった。「うちは職人の家なので、手をかけないものでしつらえたのでしょう」◆「有田に美食の伝統はない。博多は忘れて、全て有田の慣例通りにした」と言い、14代夫人とともに大みそかまで台所に立つ。正月の器は11代と12代の手によるものを中心に、100年前のものも使う◆おせちは「買うもの」という風潮の現代だが、土地土地に受け継がれる習わしは大事にしたい。これからが、おせち作りの本番である。(章)

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