ずいぶん前の出来事の気がするが、5月下旬、日本で8年ぶりとなる伊勢志摩サミットが開かれた。集まった主要7カ国の首脳のうち、英国とイタリアの首相が国民投票敗北の責任を取り辞職した。米国とフランスの大統領も次のサミットまでに交代する。欧米で選挙の嵐が吹き荒れた。

 一番の衝撃は“不動産王”のトランプ氏が米大統領選を制したことだろう。「メキシコから移民が入らないように壁をつくる」などと人種差別的な発言を続けた。多くの人は、民主主義の国であるアメリカが彼を選ぶとは考えてもいなかった。

 米国はそれだけ傷んでいる。世界一の経済大国だが、富は一握りの富裕層に集中する。グローバル化が製造業などの空洞化を招き、中間層が没落した。トランプ氏こそ富裕層の代表だが、国民の批判は経済界から多額の選挙資金を得ていた民主党候補のクリントン氏に向かった。

 トランプ氏は共和党候補だったが、既存の政治を否定するポピュリズム(大衆迎合政治)を体現していた。世界でこの流れが顕著になったのは、英国で6月に実施された欧州連合(EU)への残留か離脱かを問う国民投票だろう。事前の予想を覆し、離脱派が勝利した。キャメロン首相は残留することの経済的なメリットを訴えたが、「移民が仕事を奪っている」という感情的な訴えが勝った。

 EU離脱と移民排斥の訴えは欧州全体に広がっている。イタリアでは首都ローマの市長選で極右政党の女性候補が勝利した。フランスのオランド大統領が来春の大統領選への出馬を断念したのも、国内の右傾化が背景にある。

 欧州でEUが分裂の危機に直面する一方、強権的な指導者がリードするロシアと中国が国際政治で存在感を示している。

 ロシアはウクライナ問題での経済制裁に手を焼いていたが、米国で「世界の警察官をやめる」と紛争への非介入ともとれる発言を続けるトランプ氏が大統領となり、日本とは北方領土の交渉を通じて関係を深めている。プーチン大統領は日米2枚の外交カードを得て攻勢に転じようとしている。

 空母を建造して海洋進出を狙う中国にとって、国連の仲裁裁判所が南シナ海の独自境界線を否定したことは痛手だった。しかし、アジアでの強い影響力を背景に習近平国家主席は無視を決め込む。さらに、南シナ海で対立するフィリピンで親中派のドゥテルテ大統領が誕生したことで、中国には好都合な状況が生まれている。

 北朝鮮が世界の批判にもかかわらず、核兵器の開発を続ける。真偽はともあれ、「水爆実験成功」という発表は衝撃を与えた。ミサイル射程圏に入る日本は防衛政策で韓国との関係を強化したいところだが、朴槿恵(パククネ)大統領は親友の不正蓄財問題の責任を問われ、職務停止に追い込まれた。同国の混乱はしばらく続きそうだ。

 米国人シンガーのボブ・ディランがノーベル文学賞に選ばれた。歌詞が時代を描く文学であると評価された。名曲『風に吹かれて』で<人はどのくらい耳があれば、人々の悲しみが聞こえるのだろう>と歌う。世界ではテロと内戦が続き、多くの人命が奪われている。来年こそはその愚かさを知る一年になってほしい。(日高勉)

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