2016年が暮れてゆく。振り返れば今年は、世界がポピュリズム(大衆迎合政治)に酩酊(めいてい)したかのような年だった。米国のトランプ現象しかり、英国の欧州連合(EU)離脱しかりだろう◆この酔いが悪夢につながらなければいいが、と考えていて、古典落語の「芝浜」を思い出した。主人公は行商の魚屋の勝(かつ)。腕は良いのに酒飲みで、さっぱり仕事に身が入らない。ある日、大金が入った財布を拾い「この金がなくなるまで飲むぞ」とどんちゃん騒ぎ◆眠り込んで目を覚ますと、財布がない。女房から「なんて夢を見てんだい」と散々あきれられ、あまりの情けなさにきっぱりと酒を断つ。「稼ぐに追いつく貧乏なし」。やがて表通りに立派な店を構えるようになる◆3年後の大みそか。女房が、例の財布を取り出して打ち明ける。大家と相談して、夢だと言いくるめて届け出たが、持ち主が見つからなかったのだ、と。女房の機転が、酒浸りだった勝を一人前の魚屋へと導いたわけだ◆世界的なポピュリズムの流れに、英オックスフォード大出版局は今年の言葉に「ポスト真実」を選んだ。真実はないがしろにされ、感情的な訴えが幅をきかせた。来年はトランプ大統領が始動し、各国で極右の躍進がささやかれる。ポピュリズムの酔いから覚められるか。勝の女房のような機転がほしい。(史)

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