「筆を入れる前の仕込みが全て。伝統には個性、才能を超えた力がある」と語る山本晋寛さん。匠(たくみ)の技を次世代に伝える意欲に燃える=武雄市山内町の「川副青山」工房

山本晋寛さんが手がけた子ども茶わん。四季折々の自然を取り込み、子どもの豊かな感性をはぐくむ

 最初の一筆を入れるまでの仕込みが勝負の分かれ目になる。1時間以上かけてすり鉢で入念に絵の具を溶いていく。粒子を細かく均等にすることで、染み渡るように色が乗り、色鍋島特有の濃淡のグラデーションが表現される。「当たり前のことを当たり前にするだけ。伝統には個性や才能をも超えるものがある」。朴訥(ぼくとつ)な言葉に、伝統技を受け継ぎ、伝えていく使命を背負う「名も無き職人」の心意気がにじむ。

 何となくだが、ものづくりにあこがれて大学で陶芸を専攻し、卒業後は益子焼(栃木県)の窯元に就職した。伊万里・有田焼の気品のある作品群に引かれて移住して20年になり、今では鍋島藩窯の技を受け継ぐ川副青山(伊万里市)の職人として働く。

 「伝統を大切に」という世間のかけ声や建前とは裏腹に産業としての窯業は振るわず、勤め先の倒産・廃業も目の当たりにした。匠(たくみ)の技が一つ、また一つと失われゆく無念の思いを味わうにつれ、おぼろげなあこがれから、職人という生き方を選んだ重みを知るようになった。7年前に大病を患い、玄米食などの伝統食に切り替えた食事療法に取り組んだことも、伝統と人のあり方を深く考えるきっかけとなった。

 地元で作家として活動する伝統工芸士の先輩の窯元を訪ね、その技を体得しようと試みるなど、新しい境地も目指す。窯として代々受け継いできた伝統文様のみならず、幼いころから本物に触れてもらいたいという思いから、子ども用食器のシリーズを手がけ、かわいらしいひよこや花の絵柄にも幅を広げる。

 物言わぬ職人もまだまだ多い中、ワークショップに出向いて訪れた人に技に込められた思いを自らの言葉で語ることもある。「手に取って使ってもらううちに器に人の思いが乗り、価値を持ち始めるもの」という信念があるからだ。

 今や転写や造形の技術が高度に発達し、均質化されたコピー商品や見かけのきれいなものは世にあふれている。「だからこそ、手仕事の意味が問われていると思う」。長年培われた英知の力を信じて筆を入れていく。

 やまもと・くにひろ 雅号は寛山。1972年、神奈川県生まれ。明星大卒。益子焼窯元などを経て2012年に川副青山(伊万里市)に入社。15年に伝統工芸士(上絵付)に認定。電話0955(23)2366

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