客のリクエストに応えてデザインすることも多い。「お客様に喜んでもらうのが一番の喜び」と語る=有田町の久保田稔製陶所

「筆先に精神を集中させることが基本」と語る秋月ちぐささん。女性らしい柔らかで緻密な線を得意とする=有田町の久保田稔製陶所

■私らしさ飽くなき挑戦

 「力強いタッチが描けない」-。40代を迎え技術が円熟期に差し掛かったころ、長く悩み続ける日々があった。男性絵付け師のような力強い線を描こうとしても、うまくいかなかった。

 そんな時、お客さんの「気にせず、女性らしさを出してもいいんじゃない」という言葉に救われた。それ以来、「私は私でいいんだ」と心に留め、自分らしさを追求する。「まだ満足いく作品はできません。満足したらそこで止まってしまうので、一生挑戦する気持ちでいたい」

 子どもの頃は体が弱く、外で遊ばず、家で絵を描いて過ごすことが多かったという。高校卒業後、有田の岩尾磁器に約2年勤めた後、兄の故久保田稔さんが開いた久保田稔製陶所に入った。その時点で絵付けの経験がなく、技術は自分で身に付けるしかなかった。仕事を終え、自宅で黙々と紙に墨で線を引き、体に染み込むまで筆運びを覚え込ませた。

 赤絵の技術は30代から。講習に参加し、柿右衛門窯で赤絵を手掛けた川原留雄さんに約10年間、指導を受けた。伝統工芸士の資格は川原さんに勧められ「挑戦してみようか」と軽い気持ちだったが、結果的に大きくプラスになった。それまで作品の反応は商社から聞くしかなかったが、伝統工芸士会の展示会などに参加するようになり、ユーザーから直接聞くことが増えた。

 その声を大切にして、新しいデザインにも積極的に挑戦する。「伝統を継承しつつ、これから若い人の感性に通じるような作品を目指したい。そのために自分の感性を磨き続けることが大事」と語る。

 製陶所は秋月さんが手掛ける陶磁器のほかに、稔さんの代からファインセラミックス分野に力を入れてきた。稔さんの長男で現社長の剛さん(44)らが引き継ぎ、コーヒーフィルターや自動給水プランターなど多孔質セラミックスの性質を利用した製品のほか、大手企業と提携し、工業用セラミックスも手掛ける。

 セラミックス製コーヒーフィルターと合わせたドリッパーには秋月さんの絵付けを加えたものもある。「セラミックスはすべて甥(おい)っ子たち任せなので…。こういった形で応援できるのはうれしい」。独自技術で新分野を切り開く頼もしい姿を、温かく見守る。

 あきづき・ちぐさ 1949年、有田町生まれ。高校を卒業後、岩尾磁器を経て、兄が開いた久保田稔製陶所へ。2007年に伝統工芸士(上絵付)認定。会社は有田町北ノ川内丙1050の1、電話0955(46)3164。

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