がん患者のゲノム(全遺伝情報)を調べて適した治療法を選ぶ最先端の「がんゲノム医療」で、全国展開に向けた実行計画をまとめた厚生労働省の報告書案が28日、明らかになった。先行して本年度中に7カ所程度の「中核拠点病院」を指定。2年以内に実施病院をさらに増やし、数年後には全都道府県の病院で実施することを目指す。

 高い効果が期待される画期的な医療を地方でも受けられるようにし、がん死亡率のいっそうの低下を狙う。29日の専門家会議に報告書案を示し、厚労省が予算措置を検討する。

 がんゲノム医療は、原因となる遺伝子の変異を調べ、最適の薬や治療法を選ぶ。病気の原因に直接対処することで、従来の肺や胃など臓器別の治療より効果的とされる。現在は欧米が先行し、日本では一部病院が試験的に実施しているが、普及が進めば日本のがん治療の在り方を根本から変える可能性がある。

 計画では、100種類以上の遺伝子変異を一度に調べられる検査機器を、優先的に薬事承認して開発を後押しし、医療現場での検査を早期に可能にする。患者の負担を抑えるため、検査費には保険を適用する。

 全国の病院からデータを集める「情報管理センター」も新設。究極の個人情報とされる遺伝情報を長期間扱うため、国立がん研究センターでの運営を想定している。

 ただ、現状では遺伝子を解読しても有効な薬は限られ、治療法の開発も課題だ。情報管理センターでは、患者の遺伝子変異と治療成績、副作用の有無などの膨大なデータを人工知能(AI)で分析し、効果的な薬や治療法の開発につなげる。

 中核病院の要件は(1)遺伝子検査の技術がある(2)結果を医学的に判定できる(3)患者への遺伝カウンセリングが可能-など。中核病院の支援により、全国に約400ある「がん診療連携拠点病院」でも態勢が整えば、順次ゲノム医療を提供できるようにする。

 情報管理センターは、各地での臨床研究の情報を対象となる患者に提供、治療法を選ぶ機会を増やす。検査で患者の負担を軽くするため、手術などではなく、血液や尿から遺伝子を検出する方法の開発も進める。【共同】

■病状予測、再発防止も

 患者の遺伝情報に基づく「がんゲノム医療」は、最適な治療法を選ぶだけでなく、病状の予測や再発防止にも役立つとされる。欧米では国家プロジェクトとして実用化への動きが進んでおり、厚生労働省は態勢整備を急ぐ。全国展開するには、遺伝情報を読み解く医師や専門技術を持つ検査技師、患者に適切な説明をするカウンセラーなどの育成も課題だ。がん研究の進展に伴い、遺伝子の変異ががんを引き起こしたり悪化させたりする仕組みが解明されてきた。変異の種類によっては、がんを治療する薬も開発された。

 肺がん患者の場合、どの遺伝子に変異があるかで薬の効き方が全く異なることも分かった。治療薬イレッサは、遺伝子「EGFR」に変異がある患者と、変異がない患者で大きく効果が異なる。

 肺がんの原因となる遺伝子変異では、ほかの臓器にがんを起こすものも判明。がんの原因が同じ遺伝子なら、異なる臓器でも同じ薬が効くと考えられている。

 ただ、多くのがんは生活習慣などの環境要因も複雑に関連しており、原因遺伝子の特定は難しい。遺伝子が分かっても、対応する薬がないがんも多い。厚労省は、治療を通じて患者の遺伝情報を蓄積し、新薬開発につなげる考えだ。【共同】

 ■がんゲノム医療 がん患者の遺伝子を調べ、個人の体質や病状に適した医療を施すこと。がんは正常な細胞の遺伝子が変異し、増殖が止まらなくなって発症する。がんの部位が同じでも患者ごとに原因の変異は異なるため、薬の効き方も変わるとされる。正常な細胞とがん細胞の遺伝子を比べれば、原因の変異を特定できるほか、予後の予測にもつながる可能性がある。発症前でも遺伝性のがんになるリスクが分かる。【共同】

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