作家 雨宮処凛氏

部落解放同盟委員長 組坂繁之氏

人権集会の講演や対談に聴き入った来場者=佐賀市の佐賀県総合体育館

■「貧困と生きづらさから考える 無条件の生存の肯定」

 部落差別問題などをテーマにした「第36回人権社会確立全九州研究集会」が6、7の両日、佐賀市で開かれた。あらゆる差別や人権侵害を許さず、誰もが生きやすい社会を目指すための取り組みについて、約4500人が参加して議論した。講演や分科会の内容を紹介する。

■組坂「効率優先、人権無視」/雨宮「助け合う世の中に」

 記念講演では、作家で活動家の雨宮処凛(かりん)さんと、部落解放同盟中央執行委員長の組坂繁之さんが「貧困と生きづらさから考える 無条件の生存の肯定」をテーマに対談した。

 雨宮 格差や貧困、労働について10年にわたって取材している。私は1975年生まれの団塊ジュニア。30歳ごろから同世代のホームレスが増えた。貧困は深刻化しているのに、改善されていない。

 <雨宮さんは壇上で、最低賃金の引き上げを求める若者団体エキタスの昨年12月のデモの映像を紹介した。映像では、若い女性が「弟が自衛隊の1次試験に合格した。次も受かるかも」と切り出す。その上で、このまま自衛隊に入るか、大学に進学して奨学金の返済や教育ローンを抱えながら、手取りの少ない一般企業に就職するか、進路に迷う弟の心情を代弁した>

 雨宮 彼女の言葉には日本の現状が詰まっている。

 組坂 若い人が夢や希望を持って生きられないのはつらいこと。私も大学を卒業する間際、被差別部落出身ということが知られれば、まともに就職できないだろうと、目の前が真っ暗になったときがあった。人間は絶望すると、世の中を恨む。当時の私もそうだった。恨むのではなく、このデモのように、貧困が広がる社会を何とかしようと訴えるのは素晴らしい。

 雨宮 大学生の2人に1人が奨学金を借りている。私が知っている中で、最も多く借りているケースは1600万円。社会に出ると、毎月6万円を返さないといけない。就職先がたとえブラック企業と分かっていても就職せざるを得ない。

 非正規雇用が全体の4割を占め、そのうち女性の年収は平均142万円。平均的な所得の半分である122万円と20万円しか違わない。

 組坂 現代の非正規雇用は奴隷制度と変わらないと感じている。米国では貧困層の青年が軍隊に行く。日本の貧困もそういう方向へと向かっていると思う。

 雨宮 リーマンショックの後、自衛隊が「ネットカフェ難民」を支援する団体に勧誘に来ていた。14年には文科省の有識者会議で、奨学金の返済延滞者に「防衛省でインターンを」という提案があった。職なき若者に介入する姿は米国の経済的徴兵制を想起させる。

 組坂 雇用形態を無視するブラック企業やブラックバイトが目立ってきている。家畜同様に扱われ、人命や人権が軽視されている。行政や教育も効率化を優先する傾向にあり、役に立たない場合、駄目な人間と捉えてしまう世の中になってきている。

 雨宮 相模原市の知的障害者施設で起きた殺傷事件はショックだった。

 以前、私のいとこが体調を崩して救急車を呼んだ際、病院に受け入れを断られた。いとこは知的障害者で、病院から「症状を自分で言えないから」と拒まれ、手遅れになって亡くなった。先進的だと思っていた日本で、障害者だからと露骨に切り捨てられた。

 日本は生産性が高く、利益を出す者に価値を見いだしがち。就職の際は、即戦力になり、コミュニケーション能力があり、長時間労働に耐えられる人が求められる。これに耐えられないのは自己責任だという。こういう最悪の価値観は、相模原事件の容疑者と変わらない。

 組坂 彼のような容疑者が現れるのは、人権、同和教育が十分ではないということ。無知が偏見を生む。偏見が憎しみを生む。相手を正しく知る必要がある。

 雨宮 大変な思いをしている人に「SOSを出していいんだよ」ということを伝えたい。「助けて」という言葉は、自己肯定感や、社会や他人への信頼がないと言えない。私たちが当たり前に助け合う世の中、「助けて」って言ってもらえる存在にならないと、貧困の問題は解決しない。

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