犯罪の計画を罰する共謀罪の構成要件を取り込み「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が参院本会議で審議入りした。数の力で衆院通過を強行した与党は会期延長も視野に今国会中の成立を目指す。対する野党は法案を巡る疑問や懸念を積み上げ、徹底追及により廃案に追い込みたいとしており、攻防は激しさを増しそうだ。

 しかし犯罪が実行されて初めて処罰するという刑事法の原則を大きく転換させる法改正であるにもかかわらず、肝心の国民の理解は深まっていない。共同通信世論調査では、8割近くの人が「政府の説明が不十分」と考えている。自民、公明両党支持層でも、だいたい7割がそう回答した。

 何をすれば罪になるか、見えにくいという不安は根強い。政府はこれまで、2020年東京五輪・パラリンピックに向けた「テロ対策」に不可欠と訴え、盛んに「テロの未然防止」に効果があると強調するが、法案成立がもたらすリスクとなると、あいまいな説明に終始してきた。処罰の前倒しが監視強化につながり、プライバシー権や表現の自由を圧迫するとの懸念は膨らむばかりだ。

 「一般人は捜査対象にならない」と言うが、その説明にもほころびが見える。多くの論点が積み残しになっており、政府は審議時間にこだわらず、誠実に説明を尽くすことが強く求められる。

 衆院の審議で野党は一般人が捜査対象になるかどうかを巡り追及を強めた。政府は当初から、適用対象はテロ組織や暴力団など「組織的犯罪集団」に限定され、下見や資金の用意など「実行準備行為」がないと処罰できないから「一般人が対象になることはあり得ない」と繰り返してきた。

 ただ一連の答弁の中では「嫌疑があれば、もはや一般人ではない」「正当な活動をしている団体でも目的が一変した場合には、犯罪集団とみなされる」とも説明。一般人と捜査対象の間の線引きはあいまいなままだ。

 さらに一般人は捜査の前段階で嫌疑があるかを調べる「調査・検討」の対象にもならないとまで言い切った。捜査機関による監視強化が大きな焦点となり、それを否定したかったようだが、捜査実務とあまりにも懸け離れた説明といえよう。

 法務省幹部がオウム真理教を例に取り、組織的犯罪集団か否かをどのように見極めるかについて答弁したことがある。

 宗教団体としての活動実態がある団体で教祖が殺人を正当化する教義を唱えるようになり、信者が教義の実現を目的に結合しているとする。それだけでは不十分で、内部に組織を設け、化学薬品や武器などの研究、開発、製造などを反復継続して行うようになり初めて、犯罪集団に該当することもあり得るという。

 これからも分かるように、まっとうな団体が犯罪集団に一変したと判断するには、かなりの時間と人員をつぎ込んで特定の団体やメンバーを継続的に監視し、情報と証拠を集めることが必要になる。そのとき、市民団体や労働組合が監視対象にならない保証はない。

 ほかにも具体的に何が準備行為に当たるか、犯罪の合意に至るやりとりをどう入手するか、本当にテロの未然防止に効果があるのか-といった疑問が山積みになっている。一つ一つ丁寧に解消していくことなしに、国民の理解は得られない。(共同通信・堤秀司)

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