壁と杭(くい)の口論を描いたイソップ物語がある。力任せに壁を壊そうとする杭に対し、壁が「何もしていないのに、どうしてそんなことをするんだ」と非難すると、杭は釈明した。「悪いのは僕じゃない。後ろからがんがんたたくやつがいるんだ」。後ろにいるのはハンマーで、真犯人は別にいるという例えだ◆壁をめぐり世界が揺れている。トランプ米大統領は就任早々、本気でメキシコとの国境に壁を築こうとしている。国内に失業者があふれるのは安い外国製品が入り、移民が入国して仕事を奪うからだと。それならば、高い関税と国境の壁で閉め出せという安易な発想だ◆経済の空洞化は米国主導で進めたグローバル化に原因があるのではないか。その影の部分への反省がなく、「米国第一」で他国に責任転嫁する姿勢に先が思いやられる◆メキシコとの国境は3000キロを越える。中国の万里の長城には及ばないが、北海道から沖縄に届くような長い壁になる。建設業界は潤うかもしれないが、気が遠くなる公共事業だ◆北方の異民族侵入を防ぐために造られた万里の長城は一王朝で完成しなかった。本格的に手がけたのは秦の始皇帝だが、領民が疲弊して滅亡の一因となる。米大統領は壁の巨額な建設費を隣国に請求するつもりだ。さすがの始皇帝もそこまでの厚かましさはなかったが。(日)

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