参院選は連立与党が大勝し、非改選議席を加えれば、自民党を中心とする改憲勢力が3分の2を超えた。憲法改正発議に必要な議席数をクリアしたことになるが、与党側が選挙の争点にしておらず、有権者が改憲の動きにゴーサインを出したわけでもない。国会には慎重な議論が求められる。

 憲法96条は「衆参それぞれ3分の2以上の賛成」を憲法改正の是非を問う国民投票の実施条件にしている。衆院は2014年12月の選挙で必要議席数を確保し、今回の参院選で条件をクリアした。安倍晋三首相は選挙結果を踏まえ、どの条文を改正するか議論する憲法審査会を開く意向を示しており、改憲は現実味を帯びている。

 自民、公明両党は選挙戦でアベノミクスの成果と継続を訴え、改憲を争点にしたわけでない。ならば、民意に従い、景気回復に全力を尽くすのが、有権者の信任を受けた政治家の責任だろう。

 自民党の谷垣禎一幹事長は開票後、「選挙戦であまり言及していない。改憲が有権者に支持されたと受け止めるのは困難」と述べた。改憲は国会の意思として発議される性格にも配慮し、「野党第1党の民進党と十分に話し合うことが重要だ」とも語っている。

 公明党やおおさか維新の会の協力がなければ、発議の条件をクリアすることも、国民投票で過半数を得ることも難しいという党内事情も背景にあるだろう。

 公明党は連立政権の一員として「改憲勢力」に位置づけられるが、戦後70年続く「平和憲法」を評価する支持者は多い。山口那津男代表も「必要があれば書き加える」という加憲の立場で「憲法9条の改正は必要ない。大事にすべきだ」と話す。平和主義を定めた9条を改憲の“本丸”とする自民党との隔たりは大きい。

 そもそも政治のエネルギーを今、改憲に注ぐ時機なのかという疑問がある。安倍首相は「わが党の憲法草案をベースに議論したい」というが、現行憲法は時代に合わせて運用されてきた側面があり、多くの政治課題にも対応してきた。「改憲ありき」と、前のめりにならないように求めたい。

 今回の参院選は与党の大勝であることは間違いないが、自民党が得意とする地方の1人区は21勝11敗と取りこぼしも目立った。

 特に東北は1勝5敗。環太平洋連携協定(TPP)への農業者の反発に加え、東日本大震災の被災地の岩手、宮城、福島の3県で現政権への不満の大きさが浮き彫りになった。

 また、参院選と同日に行われた鹿児島県知事選で与党候補が敗れた。同県の川内原発は国内で唯一稼働している原発でもある。新知事は国策に協力的だった現職とは対照的に脱原発の姿勢を明確にしており、影響も大きいだろう。

 参院選で明らかになった現実の課題を優先することが、衆参ともに多数の議席を得た政権が取るべき姿勢ではないか。

 現行憲法と一緒に歩んだ戦後日本の民主主義を考えれば、改憲という答えを導くのは、熟慮に熟慮を重ねてからでいい。最終的には国民投票での賛否で決まるとはいえ、その前に憲法を争点とした国政選挙を実施すべきだ。今回の参院選で争点回避し、国民の議論の場をつくらなかったことはつくづく悔やまれる。(日高勉)

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