大統領から容疑者へ-。収賄容疑で韓国の朴槿恵(パククネ)容疑者が逮捕された。身柄は拘置所へと移され、検察の捜査が本格化する。

 朴氏は親友の崔順実(チェスンシル)被告と共謀して、サムスングループから約298億ウォン(約30億円)の賄賂を受け取るなどした疑いがかけられている。大統領経験者の逮捕は盧泰愚(ノテウ)氏、全斗煥(チョンドゥファン)氏に続き、3人目だが、初の女性大統領として期待を集めただけに、裏切られたという韓国国民の怒りと失望は非常に大きいようだ。

 昨年10月に疑惑が報じられてから、崔被告が起訴され、朴容疑者の側近だった大統領府高官、そしてサムスン副会長へと捜査が進んできた。朴被告自身も罷免へと追い込まれた。

 この間、韓国国内では大統領を糾弾する市民と、大統領支持派が激しく対立し、機動隊と衝突して死者まで出た。分断した世論をいかにまとめあげるかが、喫緊の課題と言えるだろう。

 また、朴容疑者本人がどう関わったかはこれからの捜査の進展を待たねばならないが、過去を振り返っても韓国では大統領が悲惨な末路をたどるケースが多い。

 その背景には、大統領へ権限が集中しているため、強大な力の半面、利権が生じやすいという構造的な問題がありそうだ。政権運営に当たって、いかに透明性を確保できるかが、新政権には求められるだろう。

 朴容疑者の逮捕で区切りがついた格好だが、これで韓国政治は平静を取り戻せるだろうか。

 5月9日の出直し大統領選に向けて、事実上の選挙戦が始まった。世論調査では、反朴世論を追い風に、革新系の最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイイン)前代表が大差をつけてトップを走る。文氏は「痛みと分裂を解消し、一つになるべきだ」と統合を呼びかけているが、一方で日本や米国に対しては厳しい姿勢ばかりが目立つ。

 文氏はこれまで、慰安婦問題を最終決着させた、2015年末の「日韓合意」を批判し続けてきた。釜山(プサン)の日本総領事館前に市民団体が設置した少女像についても「韓国政府は(日韓合意で)民間の像設置まで阻止すると約束したのか」と容認している。昨年夏には竹島へも上陸しており、反日的な立場が極めて鮮明だ。

 文氏は米国に対しても距離を置く。北朝鮮のミサイルを防ぐために米軍が韓国国内に設置する最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」についても見直す可能性を示唆している。

 日米韓3カ国が足並みをそろえて対応しなければならないが、韓国の新政権が反日・反米姿勢を強調するあまりに、北朝鮮の脅威を矮小(わいしょう)化したり、直視しないのではないかが気がかりだ。

 もうひとつの懸案は、在韓日本大使の召還が長期化している点である。日本政府の対応そのものはやむをえなかっただろう。釜山の少女像をめぐる韓国側の対応が日韓合意に反するのは明らかだからだ。だが、このまま、大使召還が長引くようでは、日本にとってもマイナスに働きかねない。

 初の女性大統領への大きな期待は落胆へと変わり、保守から革新への政権交代が現実味を帯びてきた。それは日本外交にとって、さらに難しい局面の到来を意味する。(古賀史生)

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