高齢者の定義を75歳以上に見直すよう提言した、日本老年学会などの記者会見=東京都千代田区

 「高齢者」とはどんな存在なのか。改めて考えさせる議論が起きている。高齢者の定義を、従来の65歳以上から10歳引き上げて75歳以上に見直すよう、日本老年学会などが提言したためだ。社会保障制度の見直し論議につながる可能性も指摘されており、立ち止まって考えてみたい問題だ。

 提言の根拠に挙げられたのが“若返り”。統計データを基に、65~74歳の高齢者は10~20年前に比べ、身体の働きや知的能力が5~10歳ほど若いと分析した。現在の「前期高齢者」はまだまだ社会の支え手でいられる年代、との見方である。

 これに同意する人は少なくない。企業コンサルタントを営む東京都練馬区の本橋和行さん(63)もその一人。「自分があと数年で高齢者になるなんて意識は全くない。元気なシニアはもっと社会貢献した方が良い」と賛同する。国の意識調査でも、65歳以上を高齢者の区切りとすることに否定的な意見が多いという。

 だが同年代でも、体に不安を抱える人の受け止め方は異なる。京都市下京区の木下悦雄さん(61)は腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症などを患い、59歳で早期退職した。今も足や手のしびれがあり、自由に体が動かない。「体が動かないので働きたくても働けない。年齢で高齢者かどうかを区切られると困る」

 木下さんは、年金支給開始年齢の引き上げなどを懸念し「そうなったら、どう生活すればいいのか」と表情を曇らせる。同学会などは純粋に医学的な提言だと強調しているが、社会的弱者に懸念を抱かせる結果を招いた面は否めなさそうだ。

 別の問題もある。何歳まで自立した生活を送れているかを示す「健康寿命」が、日本ではまだ男女とも平均75歳に満たないことを巡る疑問だ。

 元気な高齢者を増やすことを目指す団体「日本元気シニア総研」(東京都渋谷区)の代表の富田真司さん(76)は「男性の健康寿命は71歳なのに、高齢者の定義を75歳まで一気に引き上げるのは無理がある」と疑問視。「74歳まで仕事やボランティアで社会を支えることを求めるなら、活躍できる体制を整えるべきだ」と訴える。

 長寿化には、元気なシニアの増加だけでなく、高齢者像を一層多様化させた面もある。「全国老人クラブ連合会」(東京都千代田区)常務理事の斉藤秀樹さん(65)は「心身の状態や経済状況、社会的な立場などは、高齢になるほど個人差が大きい」と指摘する。

 「高齢者を年齢で区分することは実生活にとってあまり意味がないし、縛られる必要もない。(新たな区分は)定着しないのでは」と斉藤さんは予想している。【共同】

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