雨の筑後川

■遠い記憶に満ちた大河

 学生だったころ、雨の多い年だった。自宅から筑後川まで自転車で5分。葦(あし)の茂る渡し場から小さな船に乗り、対岸の鐘ケ江の渡し場に着く。土手道を上がり、駄菓子屋さんの角を曲がって少し行くと、白い洋館づくりの清力美術館があった。

 明治の天才画家、青木繁の油彩画の大作「晩帰」や坂本繁二郎の「牛」。東郷青児の「パラソルの女」などドキドキしながら鑑賞した。和田英作の「富士山」、古賀春江の透明感のある水彩画なども好きだった。まさに至福の時を誰にも邪魔されずに過ごした。

 その後、友人や学生たちをよく案内したが、時代の流れでそれらの名画は他の美術館の所蔵となっていった。

 現在この建物は大川市の美術館として活用されている。静かに流れる筑後川。この大河は私にとって思い出しきれないほどの、遠い昔の記憶に満ちている。(佐賀女子短期大学名誉教授 山田直行)

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