「83歳のピカソが自分を見つめ直した作品」と、油彩画「アトリエにて」について語る服部大次郎さん=佐賀市の県立美術館

■服部大次郎さん(佐賀市、画家)

描き直しの跡幾つも

 描かれるのはアトリエでパレットを持つ画家自身、その隣はモデルなのか愛人なのか、妻なのか。自らを登場させる点では20代の「青の時代」に通じるが、絵画としての捉え方で言えば、ドロッとした生活の臭いがする「青の-」とは完全に異なる。83歳の自分を内側から見つめ直した作品だ。

 本作を含む「画家とモデル」シリーズは、ピカソが晩年を過ごしたフランス・ムージャンで、人にも会わず部屋にこもっていた病的な時期に描かれた。

 全体的に抑えた配色で、白黒を基調にしようとしたように伺える。2人の人物を隔てる中央の境目の先端には、芽吹く葉が描き込まれている。ここだけが直接的で、ピカソとしては異質にも思える表現。未来的な希望につながるイメージで、彼自身の生活に何か新しいものが生まれる変化でもあったのだろうか。想像が膨らむ。

 ピカソ作品は一度描いては全て消す、の繰り返し。「1枚の中に10枚分の絵がある」と言われるが、本作もよく見れば幾つもの描き直しの跡がある。この妥協の無さ、普通なら83歳でできることじゃない。芸術空間の魅力に引き込まれた男の、どうしようもない楽しさが絵に表れている。

 ヨーロッパに根付く古典主義と闘い、新たな美術思想を打ち立て、新表現主義につながる火の粉をまいたピカソ。とても追い付けない巨匠だが、ただ彼がいてくれたことを愛するのもありじゃないか、と思える存在だ。

 「ピカソ展」は佐賀県立美術館で7月17日まで(月曜休館)。当日券は一般1200円、高校生以下無料。

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