歴史の時間軸に照らせば、日本に「香り文化」が定着したのはまだ最近の出来事なのだとか。『日本書紀』には、蘇我入鹿(そがのいるか)が雨乞いの儀式で香をたく場面が出てくる。が、大陸から渡ってきた香り文化は上流階級にとどまり、一般には広がらなかった◆というのも、日本人の食生活は肉食が少なく体臭が控えめで、住宅も換気に優れた開放型という事情が大きい。わざわざ香りでごまかす必要がなかったのである。(『匂いの文化史的研究』高橋庸一郎著、和泉書院)◆最近はすっかり事情が変わり、食生活や住宅の欧米化が進んだためか、におい対策が欠かせなくなってきた。関連グッズは売れ筋で、中でも男性用制汗剤などは右肩上がり。市場規模は120億円と、今や一大産業に成長した。男の汗がとことん嫌われるようになったのも、時代の流れに違いない◆「香害」という新しい言葉も生まれている。消臭スプレーや制汗剤などに含まれる人工のにおいで、体調不良を訴える人が少なくない。吐き気や体のだるさ、口内炎や吹き出物などにつながることもあるというから、実にやっかいだ◆俳句の世界では、香水は夏の季語。<人嫌(ひとぎら)ひ故(ゆえ)の香水かとおもふ>伊藤径。強すぎる香水は、時として近寄りがたい印象を与える。それを逆手にとって、遠ざけようとする人もいるようだけど…。(史)

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