改正個人情報保護法が全面施行された。世間一般の関心はあまり高くないようだ。とはいえ、改正点は多岐にわたり、交通機関の利用や飲食、買い物から健康診断に至るまで日常生活のありとあらゆる場面でやりとりされている住所、氏名、生年月日といった個人情報の取り扱いに大きな影響を及ぼす。誰も無関係ではいられないだろう。

 改正法の狙いは個人情報の活用と保護強化。企業などに日々蓄積される膨大な個人情報から氏名などを取り除き、誰か分からないようにした「匿名加工情報」であれば、自由に流通させることを可能にした。例えば、性別や年代なら分かる買い物履歴を事業展開などに生かすこともできる。

 一方で、顔や指紋の認識データなども個人情報に該当すると規定。人種や信条、病歴、犯罪歴、犯罪被害歴などを差別・偏見につながらないよう扱いに注意を要する「要配慮個人情報」とし、本人の同意なしに取得したり提供したりするのを禁じた。また規制対象に小規模事業者も含めた。

 ただ、こうした新たな保護強化の枠組みの下で、社会に必要な情報の流れまで萎縮してしまうのではと懸念する声が絶えない。既に必要以上に情報を抑える動きは各地で見られる。プライバシー保護を口実にした情報の隠蔽(いんぺい)や出し渋りにつながらないよう国は改めて制度の趣旨を徹底するなど対策を講じるべきだ。

 個人情報の保護強化の背景には、2005年の法全面施行以降に相次いだ情報流出事件などがある。中でも、14年に発覚した通信教育大手ベネッセコーポレーションの事件では3千万件近い顧客情報が流出し、名簿業者を介して転売された。

 このため改正法は個人情報の定義を明確にするとともに、提供する側と入手する側の双方に相手方や時期の記録・保管を義務化。不正な利益を得る目的で情報を持ち出し提供するのを防ごうと「データベース提供罪」を新設した。また、おれおれ詐欺など特殊詐欺で高齢者ら被害者の名簿が犯行グループの間でやりとりされているのを踏まえ、要配慮個人情報の中に犯罪被害歴を入れた。

 扱う個人情報が5千人分以下の事業者はこれまで対象外だったが、それも見直し、個人事業主にまで規制を広げた。だが一連の規制が副作用を伴うことを忘れてはならない。日本新聞協会や民放連は声明で「匿名社会」が進むと警鐘を鳴らし、報道への情報提供は適用除外であることを国民に周知するよう国に求めた。

 前回の全面施行時には社会に過剰反応が広がり、学校や自治会の緊急連絡網が作れなくなるなどの混乱が起きた。最近では、15年の関東・東北豪雨に際して茨城県常総市が個人情報保護を理由に安否不明者の氏名を公表せず、議論を呼んだ。

 広島市で14年8月にあった土砂災害で市が不明者の氏名を発表したのは発生の5日後。翌月の御嶽山噴火では長野県が不明者の氏名を出さなかった。災害時の氏名公表は安否確認や捜索に役立つ可能性があり、専門家から強い批判を招いた。

 警察が重大事件で被害者名を発表しない例もあり、こうした流れが政治家や公務員の不祥事で利用されることも考えられる。個人情報を守りながら、社会で共有されるべき情報を埋もれさせないため何をすべきか、幅広い議論が求められる。(共同通信・堤秀司)

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