非正規労働者が1千万人も増加した-。2月の完全失業率は2・8%に改善し、1994年6月以来、22年8カ月ぶりの低水準となった。しかし雇用環境はこの間に激変、賃金が低く不安定な暮らしを強いられがちな非正規が大幅に増え、働く人(役員を除く)の約4割を占める。正社員を希望してもかなわず、不本意ながら非正規で働く人の正社員への転換が進まない限り雇用の安定は遠い。【共同】

■悔し泣き

 「何とか職場に戻れたが将来は不安だ」。千葉市に住む学習塾嘱託社員並木創一さん(54)は訴える。

 小中学生を教える講師として約25年にわたり契約を毎年更新されてきたが、2015年2月末で雇い止めに。「上司からねぎらいの言葉一つなく、悔しくて妻の前で初めて泣いた」。東京都労働委員会に救済を申し立て、その後に和解。昨年6月に職場復帰したが、希望の講師ではなく出欠確認などをする1年契約の嘱託社員だった。収入は雇い止めされる前の講師時代の年収約380万円に届かない。

 並木さんはバブル経済のピークに向けて景気が過熱しつつあった88年に首都圏中心の学習塾で講師を始めた。1年契約で月収約30万円。結婚後、正社員になるか悩んだが、フィリピン出身の妻をサポートする時間を確保しやすい契約社員を続けた。それでも賃金は上昇し90年代末に年収五百数十万円になった。

 日本経済の低迷は続き2000年代に入ってから風向きが変わった。塾側は講師の契約更新を50歳までとし、その後は嘱託にすると表明。賃金の削減も始めた。並木さんは雇用が安定する正社員になろうと職を探したが、30代前半までの求人ばかりで年齢制限の厚い壁を前にやむなく諦めた。

■不本意

 失業率は94年と同水準でも雇用情勢は一変している。正社員は3805万人から16年の3364万人に400万人以上減る一方、非正規は971万人から2016万人と2倍以上に増えた。

 バブル崩壊後、企業は人件費を抑制。90年代後半から00年代前半に正社員採用を絞り、就職氷河期と呼ばれた。自民党政権は労働者派遣法を改正し派遣対象業務を拡大。非正規は「経営者が使いたいときに使って切りたいときに切れる」(労働組合幹部)として、急増した。

 家計補助の主婦のパートや学生のアルバイトが非正規の主流とはいえ、今は世帯主が非正規で働かざるを得ない場合も多い。希望しても正社員になれない「不本意」は非正規の16・9%、315万人(15年)に上る。育児や介護と両立できず非正規を選ぶ人もいる。

■支援ツール

 政府は17年度予算に非正規で働く35~59歳の正社員採用を促すため約5億円を計上。1人採用すると企業に50万~60万円を支給するが、予算はわずか約3700人分で「非正規の支援ツール」(厚生労働省)と言うには物足りない。3月28日にまとまった政府の働き方改革実行計画でも、正社員化を促す新たな施策は打ち出されなかった。

 中央大の松丸和夫教授(社会政策)は「正社員の拡充が望ましい。経済の先行きが不透明で難しければ、早期に期間の定めのない無期雇用にする必要がある。賃金アップや職業訓練なども実施するべきだ」と話した。

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