六角川に迷い込んだ鯨を描いた「新橋江筋入込候鯨図」(多久家資料・多久市郷土資料館蔵)

■川幅いっぱいに巨体

 1740年(元文5年11月)、当時多久領であった志久村初袋(現北方町大字志久)の六角川に、1頭の鯨が迷い込んできました。全長四十尺(約12メートル)、背から腹まで七尺(約2メートル)のコククジラで、鯨を初めて見たであろう人々はびっくり仰天したに違いありません。「新橋江筋入込候鯨図」(多久家資料 多久市郷土資料館蔵)には、川幅いっぱいに巨体を横たえた鯨が描かれています。

 九州西岸は対馬海流に面しており、有明海は入口が狭く奥行きが深くなっています。このため、鯨は迷い込んで出ることができなくなり、満潮に乗って六角川に入り込み、息絶えてしまったと考えられています。

 かつては「鯨一匹捕れば七浦潤う」といわれ、鯨がもたらす利益は莫大なものでした。さぞかし人々も喜んだことと思いきや、初めて見る鯨に戸惑い、扱いに困ったのでしょう、とうとう腐らせてしまったという記録が残っています。

 コククジラは沿岸部を回遊し、かつては日本列島の近海にも数多く生息していました。しかし乱獲などにより激減し、現在ではほとんど姿を見ることができなくなってしまいました。(志佐 喜栄・多久市郷土資料館)

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