天皇陛下が皇太子さまに皇位を譲る「生前退位」の意向を周囲に示されている。82歳と高齢であり、今後、多忙な公務を継続するのが難しくなったときを見据えての考えという。皇室典範には生前退位を定めた条文はない。速やかにルールづくりを進め、陛下が道をつくった「国民とともに歩む象徴天皇」のあり方を、皇太子さまら若い世代に引き継いでほしい。

 陛下は今、心身ともに健康という。しかし、2003年に前立腺がんの摘出手術、12年に狭心症で心臓の冠動脈バイパス手術を受けている。宮内庁は陛下の健康を気遣い、公務を減らす方向で調整を続けているが、陛下は「象徴としての地位と活動は一体」という信念を持たれている。

 国民との接点でもある公務を減らさなければならないのなら、天皇の地位にとどまるべきでないという強い思いが、「生前退位」の意向に至ったとみられる。

 海外には生前退位の規定を持つ皇室は多い。オランダでは3年前、女王が高齢を理由に退位し、皇太子に譲位している。しかし、日本の皇室典範は「崩御(死亡)による皇嗣の即位」のみを規定し、事実上の終身制だ。

 重い病気などで執務ができない場合、「摂政」を置くことが可能だ。大正天皇在位の時、皇太子だった昭和天皇が摂政を務めている。しかし、陛下の現在の良好な健康状態を考えれば、摂政の設置は難しい。今回の「退位」意向は、天皇としての役割を積極的に果たしていくために、陛下の熟慮を重ねた結論ではないか。

 終身制が導入された背景を考えれば、皇室典範の改正は容易ではない。歴史をひもとけば、時の権力者たちは自らの正当性を訴えるために、別の「天皇」を担ぎ出すこともあった。「天皇」が政治的に利用されることがないように、意図的な退位や即位を防ぐことが終身制の狙いでもある。

 生前退位の制度を認めるにしても、一定の条件が必要となるだろう。次男の秋篠宮さまが11年の会見で「定年制」の必要性を言及したなかで、「老いのスピードは人によって変わる。どの年齢で区切るかも含め、議論すべき」と問題提起されている。

 過去、女性・女系天皇の容認や、「女性宮家」創設が政府で検討されたものの、立ち消えになっている。今回は陛下の思いを尊重したい。皇室典範改正は有識者の意見集約や、国会での審議が必要となる。陛下の年齢、さらには多忙な公務が控える2020年の東京五輪を考えれば、速やかな審議が求められる。

 陛下は現行憲法のもとで即位した初めての天皇である。東日本大震災や阪神大震災、最近の熊本地震を含め、大規模な自然災害が起きれば、現場で膝をついて被災者の声に耳を傾けられている。多くの国民の命を奪った太平洋戦争の戦地や被爆地にも足を運ばれ、戦没者の慰霊も続けてこられた。

 陛下は誰よりも天皇の「象徴」の意味を考え、行動されてきた。その重責を高齢の陛下が一人で背負い続けるのは過酷でもある。「国民とともに歩む」というスタンスが引き継がれることが国民が求める皇位継承であり、そのための仕組みづくりを国民全体で議論することが求められている。(日高勉)

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