安倍政権が掲げるデフレ脱却を実現すべく日銀の始めた大規模な金融緩和が、5年目に入った。目標の物価上昇2%が達成できない一方で、日銀はこの4年間に国債買い入れの増額をはじめマイナス金利の導入、長期金利を0%程度へ誘導する新たな目標の設定など追加対応を重ねてきた。

 それまでの円高が修正され企業収益や株価が上昇、不動産取引が活発になった点などをもって政策を評価する声がある。

 しかし一方で、日銀の国債大量購入により財政に対する国の危機感が低下したり、株価や不動産価格を押し上げる緩和手法が市場をゆがめたりと見過ごせない負の面が表れたのも確かだ。

 何よりも、黒田東彦総裁が政策スタート時に「目標を2年程度で実現できる」と自信を持って国民に説明しながら、未達に終わった事実は重い。今やっている金融政策が「物価を上げる」点では効果に乏しく、役に立たないと証明されたに等しいからである。

 株価や不動産価格の上昇は目的でなく、あくまで一般的な物価を上げるための経路だと日銀は説明してきたはずだ。

 であれば、今の政策をいつまでも続ける合理的な理由は見当たらない。直ちにすべてをやめるのは無理としても、これ以上の副作用や将来のリスクを大きくしないために政策の整理縮小に乗り出すときである。

 就任間もない黒田総裁が「異次元」と称する政策を始めたのは2013年4月。世の中へ流すお金の量を増やせば人々の「インフレになる」との思いが強まり物価が上がる-との理屈に基づき、その手段として年間50兆円もの国債購入を開始。併せて、株と不動産の価格上昇につながる投資信託の買い入れを増やすことにした。

 その後、消費税増税で景気が低迷すると14年10月に追加策を決定。国債の買い入れを80兆円に、投資信託の購入は3倍に拡大した。

 昨年はその上にマイナス金利政策を加え、投資信託の購入を一段と増やしたが、物価は依然目標に届かないまま。足元では前年比0・2%の上昇にとどまる。

 物価押し上げの効果が見えない一方で、はっきりしてきたのが弊害であり、金融緩和による「恩恵」の受け手だ。それは1千兆円超の借金を抱える政府にほかならない。

 日銀が国債を猛烈に買い、長期金利を0%程度に抑えて借金の負担を軽くしているためで、結果的に安倍政権の財政再建意欲を後退させることにつながった。

 また大規模な投資信託の購入は、企業業績や景気に関係なく株価を買い支え、日銀が事実上、企業の大株主となる事態に。不動産市場の一部ではバブルが指摘される。

 リーマン・ショックのような経済危機時には異例の金融政策があり得よう。しかし、今がそうでないのは誰の目にも明らかである。「デフレ脱却まで」を政策維持の金科玉条とするのもやめたい。物価こそ上がっていないものの、失業や倒産が増えるデフレ不況は既に過去のものだからだ。

 黒田総裁に残された任期は1年。これまで政策の出口を語るのは「時期尚早」と口をつぐんできたが、それが許される時期はとっくに過ぎた。

 金融政策の正常化へどう道筋を描き、導いていくのか。黒田総裁の1年を注視したい。(共同通信 高橋潤)

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