自由と平等を建国の理念に掲げた国はどこに向かうのか。米国のトランプ大統領がイスラム圏7カ国からの入国を禁じる大統領令を出した。テロの危険を未然に防ぐためというが、入国禁止国の選び方が恣意(しい)的という指摘があり、何より、人種差別で人権侵害だという批判が世界中から起きている。新大統領の暴走とどう向き合うのか、日本の姿勢も問われている。

 米国が入国を禁じたのがイランやイラク、リビアなど7カ国。内戦が続くシリアも含まれ、難民受け入れも制限される。入国禁止は90日間としているが、通話やインターネットの履歴も調査できるような厳格な審査を将来的に導入する考えも示している。

 トランプ大統領は「米国を再び安全にするためだ」と自画自賛するが、米国の報道機関によると、7カ国の出身者が米国でテロを起こしたことはないという。逆に2001年の同時多発テロを含む数多くのテロ実行犯を出したサウジアラビアが除外されている。

 トランプ氏の親族企業がサウジアラビアに不動産を所有しているという指摘もあり、「自らのビジネス相手だから除外したのではないか」と選定の根拠そのものが疑われている。

 入国禁止の大統領令は宗教を理由にした人種差別でもあり、米国全土で違憲訴訟の提訴が広がっている。司法長官代行が「大統領令が適法かどうか確信がもてない」と危惧の念を示したが、トランプ大統領はすぐさま長官代行を解任した。就任からまだ10日あまりだが、もはや批判に耳を傾けない“暴君”になりつつある。

 強権的な新大統領の顔色をうかがってきた米経済界も今度ばかりは異議を唱える。グーグルやアップル、ゴールドマン・サックスなど世界を代表する多国籍企業は「偉大な才能を米国に連れてくるのを妨げる」と懸念を表明した。

 同盟国である西欧諸国もそうだ。ドイツやフランス、オランダなどの首脳が人種差別を容認する大統領令に対し、「民主主義を守る戦いが困難になる」などと批判している。自由を尊ぶ本来の米国に戻ってほしいという切なる願いでもあるだろう。

 一方、昨年末にハワイの真珠湾で日米同盟の固い絆を確認したという安倍晋三首相は積極的な言及を避けている。日本は移民受け入れを条件付きにとどめ、難民の受け入れも少ないという現状がある。今月10日に首脳会談を控え、安全保障や経済問題の交渉を考えたとき、いたずらに刺激すべきでないと判断したのかもしれない。

 しかし、首脳同士の個人関係を重視するあまりに、言うべきことを遠慮してしまってはいないか。人種差別的なトランプ流の政治を日本は容認するという間違ったメッセージを世界に発信してしまうことにならないか。強い危惧を抱いている。

 トランプ氏の強権的な政治を改めさせたいという考えは、米国の議会にも、同盟国である欧州の政治家の中にも数多く存在する。日本も価値観を共有できる人たちとの幅広い連携によって、トランプ氏を説得するという外交もあっていいはずだ。

 このままでは、米国が全く違った国に変わってしまう。真の友人であるのならば、そんな姿は見たくないだろう。(日高勉)

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