若き宮沢賢治に、こんな歌がある。<南天の蠍(さそり)よ もしなれ 魔ものならば のちに血はとれ まず力欲し>-。もしもお前が魔物ならば、後で私の血をやるからまずは力を与えよと、呼びかけているわけだ。この時期、冬の南天にはサソリに刺し殺されたオリオンが輝く◆福島第1原発の原子炉内部を見るには、宇宙から降り注ぐ「宇宙線」でおぼろげに透視するしかなかったが、ようやく鮮明な画像が捉えられた。焼けただれた黒い塊が禍々(まがまが)しい。メルトダウン(炉心溶融)した「燃料デブリ」の可能性が高いという。原形をとどめぬ溶け方に、廃炉作業の過酷さを予感させられる◆核燃料が原子炉の外まで溶けだしたケースは旧ソ連のチェルノブイリ原発しかなく、30年が過ぎてもデブリが残ったままだ。廃炉に向けてはデブリを取り除く作業が欠かせないが、内部の状態を把握するだけでも難しさがつきまとう◆福島ではデブリ除去の手だてを探るため、今月にも自走式の調査ロボットを投入して放射線量などを調べる。このロボットが、サソリにそっくり。しっぽにつけたライトで格納容器の中を照らし、カメラで撮影する仕組みである◆暴走した核の火を消し止めるための一歩は、小さなロボット・サソリに託される。「南天の蠍よ」-。賢治の歌ではないが、ここは祈るしかない。(史)

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