干潟特有の多様な生物からなる生態系と漁獲に恵まれ「豊饒(ほうじょう)の海」と呼ばれた有明海。対馬海流が通り、世界有数の漁場でもある玄界灘。県土の南北に接する二つの海は、県民の暮らしに、豊かな海の恵みをもたらしている。しかし、いまこれらの海では、人の営みの影響を受けて、さまざまな問題が生じている。きょうは「海の日」。海や海にすむ生き物たちの立場で、私たちの生活を見直す機会にしたい。

 県沖の有明海では、1990年代後半にタイラギなど貝類を中心に漁獲を大きく減らし「異変」が顕著となった。有明海の状態が深刻であることは、近年有明海で発生しているビゼンクラゲ(アカクラゲ)からも分かる。海洋生態系に詳しい広島大学の上真一特任教授によると、「クラゲが大量に発生するのは、生態系のバランスを崩した海」だという。有明海をすみかとする大方の生き物たちにとって、現在の海が、すみにくくなっていることは明らかだ。

 その原因は何なのか。過剰な漁獲や筑後川河口堰(せき)の建設、諫早湾干拓、ノリ養殖の酸処理や施肥による水質悪化などが疑われる。しかし、どれが決定的で、何を改善すれば環境が回復するか、原因を特定することは、専門家でも意見が分かれており、困難な作業だ。

 明るい兆しも見える。太良町沖のアサリが、県有明水産振興センターの調査で大幅に増えていることが確認され、一時的ではあるが、この春十数年ぶりに漁再開にこぎつけた。

 アサリなど二枚貝は海水中のプランクトンや有機物を濾(こ)し取って食べ、水を浄化する機能があり、生態系に好影響をもたらす。タイラギの天然稚貝も一部で確認されており、有明海再生への一歩と言えるのか見極めたい。

 日本三大松原で国の特別名勝にも指定されている虹ノ松原。その松原とともに「白砂青松」の風景をなす唐津湾の砂浜が、海岸浸食により消失の危機にある。

 海岸浸食は、波の作用により砂が流され、陸地が削り取られる現象。山間地の砂防ダムや河川の多目的ダムが、土砂の流下を妨げ、結果として砂浜の後退をもたらしているとみられ、全国的にも問題になっている。

 県はこのほど、浸食が著しい唐津市の浜崎海岸には、人為的に砂を補給し続ける養浜と、砂の堆積化を促す突堤を建設するなど、浸食対策の方針を決めた。貴重な観光資源でもある虹ノ松原の保全につながることを期待したい。

 海の環境保護として、取りあえず私たちにできることは、河川や海にゴミを捨てないことだろう。捨てられたコンビニのレジ袋が、海底に張り付いただけでも、その面積分が生態系から失われるという。レジ袋をクラゲと誤って食べたウミガメの死亡例の報告もある。

 海に流出したプラスチックが波や紫外線、熱などで細かく分解され、ごく細かな粒子となり浮遊。それを食べた魚や貝の体内に、有害な物質が濃縮される現象も、最近大きな問題になっている。

 海は生命の宝庫である一方、人間活動の影響を受けやすい場所でもある。私たちの日々の暮らしが、海の環境にどういう影響を与えるのか、思いをはせたい。(田栗祐司)

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