「橋の欄干にもたれながら魚の唐揚げサンドを食べていると、はるか遠くの国に来たはずなのに(略)また日本に近づいているような気がしてきた」-。ユーラシア大陸を西へ向かう旅をつづった『深夜特急』(新潮社)のトルコでの一こまだ◆魚の唐揚げサンド=サバサンドはトルコ庶民の味。筆者の沢木耕太郎さんは、親日的なトルコ人とのふれあいを「長い旅に疲れはじめていた身には、日々の小さな親切がありがたく沁(し)み入ってきた」と記す。サバの味わいとともに、日本へ戻っていくような錯覚◆イスラム国(IS)による空港テロの動揺がやまぬ中、今度は軍事クーデターが起きた。多くの市民が亡くなったが、大統領の町へ出ようという呼びかけに応じた群衆は「トルコは私たちの国だ」と叫び、こぶしを突き上げた◆国旗を手にした彼らは武器も持たず、戦車によじ登って進行を止め、一度は占拠されたテレビ局も奪い返した。その姿は、ただ人なつっこく、親切なだけではない。国を守る覚悟に満ちていた◆沢木さんは立ち寄った博物館で、アレクサンダー大王の柩(ひつぎ)と向き合う。「恐らくは災厄そのものの存在であったろう」「二度とこの世に出現させないために重い蓋で閉じ込めてしまおう、という密かなる意志」を感じる。テロも、クーデターも、どうにか封じなければ。(史)

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