九州電力川内原発(左上)と、10日投開票の鹿児島県知事選で当選確実の報道を受け支持者らと万歳する三反園訓氏(右下)のコラージュ

原発を停止させるには?

 知事に原発を止められるのか。鹿児島県知事選をきっかけに浮かび上がった原発稼働を巡る問題点を検証する。

■新知事公約は「原発停止」 川内、先行き混沌 

 全国で唯一稼働中の九州電力川内原発がある鹿児島県知事選で「脱原発」を掲げた新人の三反園訓(みたぞのさとし)氏(58)が当選した。現職が行った稼働への同意を撤回する展開も考えられ、同原発の先行きは一気に混沌(こんとん)としてきた。立地道県での脱原発知事の登場は政府、電力業界に波紋を広げている。

●8万票差

 「(熊本地震の影響確認のため)川内原発の停止を申し入れる」。三反園氏は13日、共同通信の取材に明言した。

 選挙戦は4選を目指した現職伊藤祐一郎氏(68)の多選の是非が争点となった。当初は現職有利と予想されたが、三反園氏が徐々に浸透、最後は8万票以上引き離した。

 賛否が割れる原発には両氏とも多くは触れず、三反園氏の脱原発の公約は目立たなかったものの、原発30キロ圏の9市町のうち6市町を三反園氏が制した。再稼働の経済的恩恵を最も受けているはずの地元、薩摩川内市では7票差で競り勝った。

 いちき串木野、日置両市の場合、地元同意の対象にするよう求める意見書を議会が2014年に可決したが、伊藤氏は県と薩摩川内市だけで手続きを進めた。この時のわだかまりが離反を加速させたとも取れる。

 現在、「地元」として稼働への同意、不同意を聞かれるのは道県と立地市町村のみ。しかし東京電力福島第1原発事故後、範囲拡大を求める声が強まっている。今年1~2月の関西電力高浜3、4号機(福井県)の再稼働に際しては、隣の京都府と滋賀県の知事が福井と同等の扱いを求め、従来より一歩踏み込んだ安全協定を取り付けた。

●広がる「地元」

 3月には重要な司法判断が示された。高浜の停止を求め滋賀の住民が申し立てた仮処分で、大津地裁が「事故を経験した国民は影響範囲の圧倒的広さを知っている」と運転を差し止めた。

 住民の居住地は原発の半径約70キロに及び、広範な住民を当事者と認めた形。同様の動きが広がる可能性もあり、制度整備が進まない中、「地元」が広がり始めている。

 川内1号機は今秋、定期検査で停止する。三反園氏が検査後の稼働に同意しなかった場合、九電がそれを無視して運転を再開することは難しい。10月の薩摩川内市長選で脱原発派の市長が誕生すれば、九電は一段と難しい状況に追い込まれる。

●立地県の権限 どこまで 停止要請は可能か

 電力各社は原発でトラブルがあった後の再稼働や大規模工事の前には立地自治体に入念に根回しし、知事に同意を取り付けるのが慣例となっている。電力会社にとって知事の意向は極めて重い。鹿児島県知事選で当選した三反園訓氏(58)は全国で唯一稼働中の九州電力川内原発を停止させると明言している。果たして知事の権限で原発を止めることはできるのか。

●県民の代表

 三反園氏は当選後の取材に「私に法的な権限はない」と認めつつも「川内原発を停止させて点検、調査させる。県民の代表だから言う権利がある。九電も無視はできないはず」と強気の姿勢を崩さない。

 原子炉等規制法では原子力災害の恐れがある場合などに、原子力規制委員会が電力会社に原発の運転停止を命じることができると定められている。4月に熊本地震が発生したが、今のところ川内原発に事故や災害の兆候はない。規制委の田中俊一委員長も「特段の対応はしない」と、この問題とは距離を置く構えだ。

●安全協定の重み

 県と、原発が立地する薩摩川内市、九電が結んでいる安全協定によると、県と市は安全確保のために原発への立ち入り調査ができる。その結果、必要と認められれば「適切な措置」を求めることができ、九電は「誠意をもって措置する」と定められている。

 他県の協定では「原子炉の停止、出力制限」(愛媛県)、「運転停止を含む原子炉施設などの使用制限」(福井県)と、自治体の権限を明確にしているものもある。安全協定に法的な拘束力はないが、福井県の担当者は「位置付けは非常に重い」と話す。

 川内1号機は10月、2号機は12月に定期検査入りするまで運転を続ける計画。三反園氏が7月28日の就任後、すぐに運転停止を要請すれば、夏の電力需要期を2基の運転で乗り切りたい九電は、非常に難しい判断を迫られる。

 政府関係者は「国全体が緊急事態だったときとは全く違う。(原発推進が過半数の)県議会との関係も考えれば、そんな暴挙には出られないだろう」とみている。

●大手電力会社 経営に焦り 高まる運転リスク

 三反園訓氏(58)が鹿児島県知事選で初当選を果たした翌日の11日。大手電力の幹部は、大差を付けた結果を伝える新聞に目を通しながら「原発運転へのリスクが、また一つ増えた」と表情をゆがめた。

●警戒感

 東京電力福島第1原発事故をきっかけに、原発の規制基準が厳格化され、電力各社は原子力規制委員会の審査対応に追われる。

 3月には大津地裁が、関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じる仮処分を決定。川内原発の一時停止を公約にする三反園氏の当選は「トリプルパンチだ」(同幹部)と警戒感を隠さない。

 林幹雄経済産業相は12日、三反園氏の主張には「丁寧に対応したい」と述べ、当面は出方を見守る構えを示した。だが、経産省幹部は「地元経済への影響を考えれば、脱原発を言い続けるのは非現実的」と早くも妥協点を模索。「司法判断と違って、知事の判断には柔軟性がある。いずれ理解を得られるはず」というのが幹部の見立てだ。

●業績悪化も

 だが大手電力の焦りは色濃い。11日の東京株式市場では、三反園氏の当選を背景に九州電力の株価が急落し、今年の最安値を更新。川内原発の再稼働で2016年3月期の連結純損益の黒字転換にこぎ着けていただけに、九電側は「長期停止になれば、業績が再び悪化する」と頭を抱える。

 さらに、4月に導入された電力小売り全面自由化の圧力が、経営に大きくのしかかる。都市ガスや携帯電話会社と家庭の電力契約を巡って競争となり、経営効率化を迫られている。大手電力は原発の再稼働を急ぎたいが、安全対策の費用も膨らむ一方だ。

 別の大手電力幹部は「原発は国策民営で成り立っている。自由化の下で原発を続けるには、国のサポートが不可欠だ」と話し、リスクを見据えた政府の対応を求める。

 自由化が進む一方で高まる原発運転へのリスク。原発の先行きに不透明感が広がる中、30年の電力構成比率で原発を「20~22%」とした政府の構想に、関係者の間からは「もはや達成は無理なのではないか」と、見直しを求める声がささやかれる。

■玄海原発3、4号機 九電、早期再稼働に意欲

 九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)の再稼働に関しては現在、3、4号機について原子力規制委員会の審査が大詰めを迎えている。九電の瓜生道明社長は、6月末の株主総会後の記者会見で「遅くとも年度内でチャレンジしたい」と述べ、早期の再稼働に意欲を示している。

 玄海原発を巡って九電は5月中旬、再稼働後の重大事故対策として自主的に機能を拡充する緊急時の対策所に関し、当初計画にあった免震構造を撤回し、耐震構造で新設する方針を決めた。十分な説明がないままでの方針転換に、周辺自治体や市民から厳しい批判を受けた。

 山口祥義知事は原子力政策に関し、国の安全確認を前提に再稼働を容認している。玄海原発の再稼働については、国から相談があった時点で考え方を確認し、他県の事例も参考にしながら佐賀県として整理していくとしており、明確な態度は示していない。

 伊万里市の塚部芳和市長は7月上旬、半径30キロの緊急防護措置区域(UPZ)にある県内の首長で初めて、再稼働への反対を明言している。

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