「金さ君。金を見ると、どんな君子でもすぐ悪人になるのさ」-。夏目漱石の小説『こころ』で登場人物が口にする言葉である◆漱石は生活の上でのお金にこだわった。しかし、それは額に汗して得たお金であって、正当な勤労なくして手にした金で力を振るうような金満家を毛嫌いした。『二百十日』でも、金持ちが幅をきかす卑俗な世相を痛烈に批判している◆最近また、お金にまつわるニュースが伝わった。ソフトバンクグループが、ITベンチャー企業などに投資する10兆円規模のファンド設立を発表した。米アップルなど世界的な企業や有力ファンドが出資者として名を連ねている。人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)など最先端技術へ投資するという◆いわゆる一般の人の暮らしとは別次元のように感じる。日常生活は100円、200円を見つめて暮らしている人が大半だ。片や気の遠くなるような数字が飛び交う。地球上の富のほぼ半分は世界の1%の富裕層が占めているらしい。貧富の差は広がるばかり◆だが、お金があるから幸せというわけでもない。ないから不幸ということもない。それぞれが、お金の価値基準を持つしかない。人と比べず自分のモノサシで決めながら暮らしていく。働き者だった漱石も、案外そんなふうに考えていたのかもしれない。(章)

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