過激な言動で物議を醸し続けている米国の実業家ドナルド・トランプ氏(70)が、11月に本選が実施される米国大統領選の共和党候補に指名された。過去に政権を担った主流派の重鎮たちが党大会を欠席しており、共和党は一枚岩とは言えない。大統領の椅子をつかむために、これまでのやり方を修正するのか。“異端児”の動向に注目が集まる。

 トランプ氏は「真の変革と指導力をワシントンに取り戻す」と決意表明した。指名受諾演説は21日。共和党大会を欠席したブッシュ元大統領父子ら主流派との溝を埋めるため、どのようなメッセージを出すかが焦点となる。

 泡沫(ほうまつ)候補といわれながら、予備選を勝ち上がった原動力は市民の不満をそのまま言葉にした奔放さにあるだろう。党政策綱領にも、移民流入を防ぐため「メキシコとの国境に壁をつくる」というトランプ氏の主張が盛り込まれた。

 移民の増加で米国人の仕事が奪われているというのがトランプ氏の主張だが、それだけにとどまらず、メキシコからの移民を「レイプ犯」などと犯罪者扱いしている。「壁」を政策として掲げることは根拠のない差別を党が認めた形にならないか。

 元々が移民国家であり、人種差別を乗り越えることが米国の民主主義の歩みだったはず。差別的な発言が続くことは米国の“後退”に感じられる。

 米国大統領の発言は重い。15日にトルコで発生したクーデター未遂後、オバマ大統領はトルコのエルドアン大統領と電話会談している。その中で武装蜂起した軍関係者だけでなく多くの公務員や司法関係者を拘束し、テレビやラジオなど報道機関の免許停止という行き過ぎた粛清に対し、自制を促した。民主主義への逆行には異を唱えるという米国の政治的なスタンスを示したのだろう。

 また、世界各地に広がるテロ被害のほか、ロシアはクリミア併合、中国は南シナ海での勢力拡大と、大国が世界の不安定要素になっている。米国には世界を視野にした行動が求められている。

 トランプ氏を押し上げているのが既存の政治への強い憤りだということも忘れてはならない。元大統領夫人のヒラリー・クリントン氏(68)が民主党の予備選で格差是正を訴えるサンダース氏に苦戦を強いられたのも同じような背景があると言える。

 過激な自由市場経済で減税と福祉削減を進めた結果、地域社会は荒れ、一握りの富裕層に富が集中している。日本と同じように奨学金返済に苦しむ若者も多い。努力すれば夢をつかめるという「アメリカン・ドリーム」に多くの国民が疑問を感じ始めている。格差の固定化が民主主義の土台を揺るがしている現実を見なければ、この大統領選の本質は見えない。

 トランプ氏は自身と“真逆”の穏健な保守派のペンス・インディアナ州知事を副大統領候補に起用し、党結束へメッセージを送った。一方で、女性初の大統領を目指す民主党のクリントン氏に対抗するため、過激な発言で人気取りを続けることも想像できる。

 劇場型の選挙を続けても国内外の不安をあおるだけだ。世界のリーダーを目指すなら、「安心」という心強さを示さなければ共感など得られない。(日高勉)

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