日本本土の最東端にあたるのが、根室市にある納沙布(のさっぷ)岬だ。大学生のころ、夏の終わりに訪ねたことがある◆行ってみて初めて分かることだが、歯舞(はぼまい)諸島の貝殻島までわずか4キロ弱。「こんなに近いのか…」と実感した記憶がある。鈍色(にびいろ)の海、白い波光が目に焼き付いている。この海の中間に事実上の国境線がひかれているわけだ。歯舞諸島を含む北方領土の近さと遠さを思わずにはいられなかった◆あすは北方領土の日。思い出す人がいる。昨年11月に亡くなった、北方領土の元島民でつくる「千島歯舞諸島居住者連盟」前理事長で、返還運動の中心的役割を担った小泉敏夫さんだ。享年93。8年前に電話でだったが、取材をした。色丹島(しこたんとう)生まれで島に祖父母の墓がある◆全島が高山植物に覆われ、初夏になれば黄色い可憐(かれん)な花のシコタンキンポウゲの群落が輝く。「自然豊かな美しい島でね」と語る小泉さんの胸に残る原風景は、懐かしさにあふれている。墓参りには行ったが、「移住したいし葬られたい」と切実な思いをいだいていた。かなわぬまま息を引き取った◆昨年12月の日ロ首脳会談で交渉入りに合意した北方領土。高齢化が進む元島民には時間がない。小泉さんが願ったように、生きているうちに一刻でも早く故郷を取り戻せる日を、と思う。(章)

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