「わたしは不幸にも知っている。時には嘘(うそ)に依(よ)るほかは語られぬ真実もあることを」-。芥川龍之介が『侏儒(しゅじゅ)の言葉』で書いている。どれだけ嘘で取り繕っても、そこには真実がひそんでいるという意味だろう◆森友学園の籠池(かごいけ)前理事長夫妻が詐欺の疑いで逮捕された。安倍晋三記念小学校を建てようと昭恵夫人を名誉校長に据えたり、安倍首相から100万円もらったと訴えたり。国会で「事実は小説より奇なり」とうそぶいていたが、いったい何が真実で、何が嘘なのか◆大阪地検特捜部が手を付けたのは補助金に対する詐欺の容疑だが、これは疑惑のほんの一部にすぎない。夫妻の逮捕だけで捜査の手を緩めるようでは、籠池氏の言葉通り「トカゲのしっぽ切り」でしかないだろう。本丸は、国有地はなぜ格安で売却されたのか、である◆疑惑をめぐる国会の追及を「記録がない」「記憶にない」で押し通し、出世の階段を昇りつめた官僚もいるやに聞く。どんな力学が働き、何が起きていたのか。すべてを究明しなければ、フェアとは言えないだろう◆「わたしはある嘘つきを知っていた。(略)あまりに嘘の巧みだったためにほんとうのことを話している時さえ嘘をついているとしか思われなかった」と芥川はあきれた。どうせ真相は分かるまい、と舌を出す人の影がちらつく。許すまじ。(史)

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