集落の若手が主力となって行った田植え作業。法人化を機に「ふるさとの農地を守る」という意識はいっそう強くなった=嬉野市塩田町福富

 「次はあっちで『さがびより』ばい」「オーライ」-。梅雨の合間に青空が広がった6月最後の日曜日。田植機を自由自在に乗りこなす若者の姿がまぶしく見えた。農事組合法人「福富ドリームファーム」の古賀晃憲代表(69)は「去年まで農業に触れたこともなかったのに、ここまでやれるとは」と、指示を出さずともスイスイと進んでいく作業を目を細めて見守った。

 集まったのは、地元に残った若者に加え、ふるさとを離れて働く子ども世代やその娘婿たちで、20代から50代まで総勢13人。昨年5月の法人化を機に、農地を守る“助っ人”として呼ばれたが、2年目の今年はすでに主力としてフル回転している。

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 福富地区は比較的条件が良い平たん地。ただ、小規模農家のみで、担い手の高齢化が進み、残った若い世代も地域外に勤める人がほとんどだ。田植えや稲刈りでの人手不足がいよいよ深刻となり、活路を探る中で法人化の検討を始めた。

 「子どもの世代が農業をやりたくないと言えば、簡単に解散ができなくなる法人化は重荷になるかもしれない」。古賀代表には迷いもあった。だが、「将来の担い手を育てるために新型の田植機を買う。作業は若いみんなに任せたい」と切り出すと、「一緒にやろう」と若手から声が挙がった。幼なじみ同士で自発的にSNSで連絡を取り合い、田植えの日には、ほぼ全員が集まった。

 最初は田植機があらぬ方向に行くこともあったが、あえて手を出さず、使い方を教えて自分で修正させた。埼玉県から家族でやってきた松尾憲助さん(33)は「自分が農業をやることを全く想像していなかったが、案外できるもので楽しい。帰ってくるいい理由にもなる」と笑ってみせた。

 法人化することで後継者や新規就農者の受け皿の役割も果たす。「いきなり『農家を継げ』と言っても実際には難しい。集まってくれた若者がまずは農業に興味を持ってくれたら。場合によっては法人で雇用してじっくり次世代のリーダーを育てたい」と古賀代表。経営を託すことができる人が現れるのを気長に待つ。

 今年、転勤で実家を離れた森一史さん(37)=宮崎県都城市=は「ふるさとの農地が荒れるのはやはり忍びない。帰るべきところがあれば、また近くに戻って来たときすぐに農業ができる」と安心する。

 「法人化により、地域全体で農地を守るという決意が固まった」と古賀代表。ロゴマークを作り、法人の名称に「ドリーム」を入れたのは若手のアイデアだ。「夢」のある地域づくりに世代を超えて連帯する。

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 「子孫に美田を残さず」と言ったのは昔のこと。地域に美田を残すべく、集落営農の法人化をきっかけに挑戦を続けている優良事例を紹介する。

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