記者会見する京都大の戸口田淳也教授=1日午後、京都市

FOP患者のiPS細胞から作った細胞を移植したマウスの骨。ラパマイシンを投与していない場合(左)に比べ、投与したマウスは異常な骨ができにくくなった(京都大iPS細胞研究所池谷研究室提供)

 筋肉の中に骨ができる難病「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」の治療薬の候補を、京都大の戸口田淳也教授(幹細胞生物学)らのチームが人工多能性幹細胞(iPS細胞)を使って発見し、臨床試験(治験)を9月以降に始めると1日、発表した。

 患者からiPS細胞を作れば、症状を体外で再現できることを利用したもので、京大によると、iPS細胞を使って開発した薬の治験は世界初。再生医療だけでなく創薬でのiPS細胞活用が進展した形だ。

 チームは、FOP患者のiPS細胞から病気の特徴を持った細胞を作り、さまざまな薬の候補物質を加えて効果などを調べ、約6800種の物質の中から、免疫抑制剤「ラパマイシン」が異常な骨の形成を抑えることを突き止めた。ラパマイシンは国内ではラパリムスという商品名でリンパ脈管筋腫症の治療薬として販売されている。

 新たな疾患への適用となるため、安全性や有効性を検証する治験が必要。現場の医師が主体となって進める医師主導治験を京大病院で進めるため、審査委員会の承認を得た。対象は6歳以上60歳未満の患者20人で、東京大、名古屋大、九州大の各病院でも実施予定。

 チームは実験で、FOP患者のiPS細胞から作った細胞をマウスに移植した上で、ラパマイシンを投与し、異常な骨ができにくくなることを確認している。

 FOPはACVR1という遺伝子の変異が原因とされ、腱(けん)、靱帯(じんたい)の中にも骨ができ、手足の関節の動きが悪くなり、呼吸筋に影響が出ると呼吸困難になることもある。

 戸口田教授は記者会見し「予想外のスピード。これまでできなかったことをiPS細胞で突破できた。ただ、どんな副作用が出るか分からないので過度な期待はしてはいけない」と話した。

 研究進展に期待を寄せてきたFOP患者の山本育海さん(19)=兵庫県明石市=は「協力したい。少しでも良い成果が得られればいい。あらゆる難病がなくなるのがゴール」と語った。【共同】

■新治療開発に期待

 京都大iPS細胞研究所の山中伸弥所長の話 ヒトiPS細胞ができて10年の節目に(今回の)治験開始の発表をできることをうれしく思う。本当に患者に効果があるかどうか、慎重に推移を見守りたい。治験をきっかけに創薬研究がますます活発に行われ、他のさまざまな難病に対する新しい治療法の開発につながることを期待している。【共同】

 ■進行性骨化性線維異形成症(FOP) 全身の筋肉や腱(けん)、靱帯(じんたい)などの中に、本来できないはずの軟骨や骨組織ができ、関節や筋肉が動きにくくなる難病。発症には遺伝子の変異が関与しているとされ、詳しいメカニズムは分かっていない。難病情報センターによると、海外での発症率は200万人に1人といわれ、国内には60~80人程度の患者がいると推定されるが、有効な治療法は見つかっていない。幼い頃から徐々に骨化が進行するケースが多く、つえや車いすが必要になることもある。

 ■人工多能性幹細胞(iPS細胞) 皮膚や血液など特定の役割を持った細胞に、人工的に数種類の遺伝子を入れて、さまざまな細胞に変化する能力を持たせた細胞。培養条件に応じて神経や心臓、網膜などの細胞を作製できる。山中伸弥京都大教授が2006年にマウスで、07年にヒトで作製を報告し、12年にノーベル医学生理学賞を受賞した。病気やけがで失った組織や臓器を修復する再生医療に役立つと期待され、京大は移植しても拒絶反応が少ないiPS細胞を作製し、備蓄、提供を進めている。

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