「お前は世界チャンピオンになれる」-。曲技飛行の世界で名トレーナーとして知られた故ランディ・ガニエは、まったく無名の日本人パイロットの才能を、たった10時間のフライトで見抜いた。その青年はアルバイトで貯(た)めた金で渡米した、若き日の室屋義秀さん(44)だった◆空のF1と呼ばれる「レッドブル・エアレース」は世界トップの14人だけが参戦を許され、世界を転戦する。千葉県で開かれた日本大会を連覇し、室屋さんは3戦2勝とランキングトップ。頂点が見えてきたが、ここに至るまでは苦難の連続だった。昨年出した自著『翼のある人生』(ミライカナイブックス)に詳しい◆最大の危機は6年前の東日本大震災。室屋さんの拠点は福島県福島市にある、農産物の輸送を目的に造られた空港「農道離着陸場」である。滑走路はひび割れて陥没し、いったんは廃業まで覚悟する◆サムライパイロットの夢を潰(つい)えさせるな-。そう考えた人々が支えてくれた。その思いに応えるためにも、室屋さんは「福島の現実をありのままに正しく世界に伝えること。それが僕のできる、最も有効な活動だ」と信じる◆人生の師とあおいだランディは、道筋だけを示して逝った。今季残り5戦。「やり続けていれば、超えられるかもしれない。少なくとも、チャンスは残る」。挑戦は続く。(史)

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