地引き網にはタイやカワハギ、コノシロなどいろんな魚が。勢いよく水をはねる様子に、参加者たちの歓声が上がる=唐津市肥前町駄竹の大神浜

「ヨイショ、ヨイショ」。声を合わせて地引き網のロープを引っ張る子どもたち

向島などが間近に見える駄竹の海。近年は「磯焼け」など海況異変も

 「ヨイショ、ヨイショ」。子どもも大人も、声を合わせてロープを引く。波音が、調子外れの合いの手のように折り重なる。

 唐津市肥前町駄竹で開かれた地引き網の体験イベント。「大神浜」と呼ばれる長さ300㍍ほどの小さな浜辺に、70人近くが集まった。

 主催したのは地元の若手漁業者たち。「都市の消費者と直接つながりたい」と、2009年から毎年続けている。

 駄竹はシラス漁が盛んで、ちりめんじゃこの産地として知られる港だが、だ円の網を使って魚を追い込む「ごち網漁」で、タイやカワハギの水揚げも多い。

 「駄竹の魚は、鮮度には自信がある。でも市場に出すと『唐津産』でひとくくりにされてしまう」。イベント開始当初から運営に関わってきた井上健一さん(40)は「自分たちで頑張って魚の値段を上げていかないと」と、力を込める。産直の農産物のように、生産者の顔を知ってほしい。そんな願いがある。

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 地引き網は、漁に使うごち網を改良し、ロープの全長約900㍍。人の手だけで引き上げるには時間がかかる。そのうえ、網が岩場に引っかかって、しばし中断―。

 「昔はここも、海水浴とかキャンプでにぎわっとったけどね」。若手の手伝いに駆けつけたベテラン漁師たちが、手持ちぶさたに思い出話を始める。「夏休みの間中、ずっと泳げた」。かれこれ半世紀以上前の話。それが今では、早い時期からクラゲが出る。

 地球温暖化の影響か、以前はもっと南の海に生息していたバリ(アイゴ)が海底の藻を食べてしまい、他の魚類が生育できない「磯焼け」に地元の漁師たちは頭を痛めている。

 地引き網の体験イベントが始まったのは、「海況異変」に苦悩する港町を、少しでも元気にしたいという思いからでもあった。

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 「ヨイショ、ヨイショ」。やっと地引き網が再開した。「あ、魚、魚」。浅瀬に見え始めた網の中に、魚影がのぞいている。「ヨイショ、ヨイショ」。ひときわ力をこめて引き寄せると、タイやカワハギ、コノシロ、スズキ…多彩な魚がバチャバチャと勢いよく水を跳ね上げる。この日は、2・5㌔はあろうかというコロダイの大物やアオリイカ、アナゴなど〝珍客〟も混じってコンテナ3杯分の水揚げだった。

 実家への里帰りを兼ね、家族5人で参加した福岡市南区の佐藤律子さん(43)は「ここのおいしい魚を食べたら、子どもたちの魚嫌いが克服できるかも」と笑顔を見せた。わが子に伝えたいのはきっと、「ふるさとの豊かさ」なのだろう。

<こぼれ話>海岸線の棚田

 唐津市肥前町は海岸線に沿って棚田の美しい景観が続く。毎年5月には入野地区周辺の棚田を巡りながら、鷹島肥前大橋が架かる海岸線の絶景を楽しむウオーキング大会が開かれ、市内外から多くの愛好家が詰めかける。駄竹漁港を見下ろす棚田も今、まばゆいほどの若苗色に染まっている。

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