高齢者の交通事故防止対策として、警察庁が運転免許制度の見直しを進めることになった。自動ブレーキや、ペダルを踏み間違えた時に加速を抑制する装置を搭載した「安全運転サポート車」に限って運転できる「限定免許」の導入や、80歳以上で違反や事故を繰り返すハイリスクドライバーへの実車試験などを検討する。免許の自主返納を促進する施策の充実も併せて考えたい。

 免許制度見直しは1月から医療や福祉、交通工学の専門家らの有識者会議で協議。6月末に政府のワーキングチームに概要を報告した。限定免許については運転の時間や場所を制限することも論議されたが、サポート車が事故防止により効果があるとみて導入を目指すことになった。免許制度見直し以外にも(1)運転適性相談の見直し(2)視野障害に伴う運転リスクの排除(3)身体機能の低下に伴う運転リスクの排除(4)新たな安全教育プログラムの開発-などの実施を検討していく。

 アクセルとブレーキの踏み間違いや高速道路の逆走など、高齢者の事故が目立っている。3月には、75歳以上の認知機能検査を強化する改正道交法が施行され、免許更新時に認知症の恐れがあると判定されると、医師の診察を受けることが義務化された。認知症と診断されれば免許取り消しか停止になる。こうした施策は事故防止に一定の効果は期待できるが、高齢者から生活の足や生きがいを奪い、認知症の進行を早めてしまうと指摘する専門家もいる。限定免許を導入すれば、運転寿命を延ばすことが可能になる。

 限定免許は海外に先行事例がある。米国の一部の州は実車試験の後、試験官が高齢者と話し合った上で免許を発行する。米イリノイ州では実車試験や視力検査を行い、試験官の判断で場所や時間のほか速度なども限定する。ドイツは重度の認知症は免許を取り消すが、症状が早期と判断されれば、運転できる時間や場所などを限定した免許が発行されることがある。警察庁はこうした事例も参考にして議論を進める考えだ。

 運転免許制度の見直しと並行して免許の自主返納を促進する施策も充実したい。警察や自治体、医療機関に加え、かかりつけ医やケアマネジャーも含めたネットワークをつくるのはどうだろう。個人差のある身体機能の低下や病状を的確に見極め、きめ細かい相談・対応の態勢を整えたい。医学的な知見、交通行政の専門家としての見解を、日常的につながりの深いケアマネジャーが説明するという形だ。より多くの人が、衰えを自覚し、納得して免許を返納する環境をつくりたい。

 免許返納に対応する体制充実の必要性も指摘されている。認知症を診断する専門医の不足や、都道府県警の運転適性相談窓口に配置が検討されている医療系専門職員の育成だ。75歳以上の免許保有者は昨年末時点で513万人。10年前より255万人も増え、2021年には613万人に達すると推計されている。対応が急務だ。

 運転免許制度見直しについて警察庁は、改正道交法施行後1年間の結果を見ながら検討を進める考えだ。免許制度見直しと新たな道交法という二つの施策をうまくからませながら、高齢者の事故防止を進めたい。(小野靖久)

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