伝統工芸士の試験の際に作った壺を持つ山口博和さん。「色の濃淡で表現する染付の奥深さが魅力」と話す=有田町の自宅

「山水画を学んだことが今の仕事に大いに役立っている」と話す山口博和さん=有田町の自宅

■力強く繊細に 絵に生気

 切り立った崖や遠くの山並み、山肌の松などを迷いなく描き進める。尾根は力強く、木の枝や葉は繊細に。線の太細に気を配り、筆を動かす。「一本の線の中にも強弱がある。全体のバランスを考えながらメリハリをつけないと、絵が死んでしまう」。山水や花鳥などの伝統的な絵柄を思い浮かべ、息を詰めるようにして、大皿や花器に向かう。

 定時制高校に通いながら15歳で絵付けの仕事に入った。高校卒業後、神奈川県で溶接の仕事に就いた時期もあったが、1年もせずに帰ってきた。生まれ育った有田町の窯元や陶磁器店が並ぶ通りがいつも頭にあった。親族も焼き物関係が多かった。「絵を描くのが好きだったし、焼き物作りが自分に合っていると思った」と振り返る。

 20歳で深川製磁に入社。希望通り絵付けの職場に配属された。すぐに社内の山水画クラブに入り、絵の基本を学んだ。職場では「見て覚えろ」と厳しかった先輩も、クラブ活動では絵の基本から気さくに指導してくれた。「それまでは独学みたいなもの。構図の取り方などを教えてもらい、今の仕事につながっている」と話す。

 深川製磁に残る図案帳から。明治時代のデザインの復刻にも取り組んだ。今にも動き出しそうな鶴や、丁寧に濃淡を使い分けて描かれた文様など、レベルの高さに舌を巻くことも多かった。

 ただ、動きを出すため、一気に描かれた鶴の首や、生き生きとした目の表情は再現しながらも、配置などには現代的な感覚を取り入れることに腐心した。「同じものを正確にというだけでは、時代とずれることもある」と、新しい表現を心掛ける。

 製作で力を入れるのは下書きとなる型紙作り。「下準備で出来栄えが全然違ってくる」と時間を掛ける。水鳥は角度を変えて何種類も描き、花はそれぞれの特徴を生かす。気に入った線が生まれるまで、何度も描き直す。「見た瞬間に鳥や花の名前が浮かぶように描かないとね」。職人のプライドをのぞかせた。

 やまぐち・ひろかず 号暁雲(ぎょううん)。1948年有田町生まれ。有田工高定時制卒業後、64年に深川製磁入社。88年伝統工芸士(下絵付け)認定。92年一級技能士。有田町赤坂丙2351の16。電話0955(42)4739。

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