もう30年ほど前になろうか。有明海で二枚貝のウミタケの潜水漁を取材した。伝統漁法の「ねじ棒」は船上から長い棒の先を絡ませ、海底から伸びた水管だけをねじ切る。一方の潜水漁はアクアラングを背負い海底のウミタケを貝ごと掘り出す◆ねじと違い生きたまま市場に出せるし、スキューバダイビングに通じるスマートさがあり若い漁師に人気だった。でも「そんな格好いいものでもなかよ。きついし、危険も伴う」とも言っていた◆苦労はあっても、この頃の有明海はまだ豊かだった。いつしかウミタケも取れなくなって寂しい思いをしていたら、約10年ぶりに増加に転じたというニュースに触れ、無性に食べたくなった。佐賀県が海底をしゅんせつしたり、盛り土して手を入れた成果が出てきたようだ◆調査したら、白い花が咲くように海底にびっしりとウミタケが張り付いていたという。昔を思い出した。海底はどうなっていますか。「杉林のように水管が立っとる」。海から上がった漁師の息が弾んだ◆そう言えば、わさび醤油(じょうゆ)や辛子酢味噌(からしすみそ)で食べる刺し身も長く口にしてない。コリコリして歯ごたえがたまらない魅力だった。かす漬けでよし、干してあぶってよし。明るい話題に、かつての珍味が懐かしい。このまま漁獲につながればと思う。(章)

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