【ワシントン共同=浅見英一】人の受精卵をゲノム編集で改変し、心臓病の原因となる遺伝子変異を高い効率で修復することに成功したと、米オレゴン健康科学大のチームが2日付の英科学誌ネイチャー電子版に発表した。子宮に戻して成長させるのは避けた。ゲノム編集は狙った遺伝子を効率的に改変できる技術。人の受精卵への応用は中国で実施例があるが、米国では初めて。

 従来に比べて成功率が大幅に高まり、受精卵が成長する際に正常な細胞と異常な細胞が混じる問題も避けられた。質が良い受精卵を選んで子宮に戻せば、子どもが遺伝病になるリスクを減らせる可能性がある。チームのミタリポフ教授は「臨床応用を見据え、精度を上げたい」と話した。

 ただ生殖に関わるゲノム編集は安全面の懸念が残る上、改変された遺伝子が将来の子孫に受け継がれるため倫理的な批判が根強い。専門家は「実際の応用には十分な検討が必要だ」と指摘する。

 チームは、肥大型心筋症の原因とされる遺伝子変異を持つ精子と、ゲノム編集のための試薬を同時に正常な卵子に注入。体外受精でできた58個の受精卵のうち、72%にあたる42個が正常な遺伝子だけを持っていた。狙ったのとは違う遺伝子を改変するミスや、受精卵が細胞分裂を繰り返した後に異常な細胞がモザイク状に混じる問題もほぼ起きなかった。

 中国の研究者は体外受精の後で時間を置いてゲノム編集の試薬を入れる手法を試みたが、受精卵6個のうち正しく改変できたのは1個だけだった。今回は体外受精と同時に試薬を入れたのが決め手になった。

 人のゲノム編集について、米科学アカデミーは技術が向上すれば将来容認しうるとの見解。日本は政府の生命倫理専門調査会が子どもの誕生につながる臨床応用は認めない一方、審査を経た基礎研究は容認できるとの姿勢を示す。ただ審査体制が整っていないため、事実上研究が進められない状況になっている。

 ■「解説」 倫理的課題、慎重さ必要

 米国チームが発表した人受精卵のゲノム編集は、これまでより遺伝子改変の効率が向上し、技術的には遺伝子変異が原因となる病気を防ぐのに利用できる一定の可能性を示した。ただ今回の結果が実用化に直結するわけではなく、生命の設計図を改変することの是非など倫理的な課題を慎重に検討する必要がある。

 受精卵に対するゲノム編集は、成長する際に正常な細胞と異常な細胞が混じったり、狙ったものとは別の遺伝子が改変されたりするのが技術的な問題となる。チームは、体外受精の際に、精子とゲノム編集の試薬を同時に注入するなどして、こうした問題を回避した。

 だが今回は、肥大型心筋症の原因とされる遺伝子を対象にしてうまくいっただけで、別の病気では問題が起きる可能性がある。また改変の影響は次世代へと引き継がれるため、長期的に思わぬ影響が出る恐れもある。

 倫理面では、特定の病気を人為的に排除する行為のため、命の選別につながりかねない。「人類の多様性が損なわれる」との懸念もある。

 日本では政府の生命倫理専門調査会が昨年、基礎研究に限って人受精卵のゲノム編集を容認する方針を示しており、現在審査の在り方を検討中。安易な受精卵の改変が行われないよう、規制を求める声も上がっている。

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