■不戦の誓い引き継ぐ

 戦後70年を機に2014年10月から1年半連載した「刻む 佐賀・戦時下の記憶」を書籍化した。いまや戦争経験者は2割に満たず、戦後生まれが8割を超えている時代に、この連載がどれだけの人に共感を持って読まれるか不安もあった。しかし、人は経験しなかったことでも、言葉や文章によって想像し、理解できる。そんな願いを込め、70代から100歳まで「70人」の証言を聞き取った。

 佐賀新聞は戦後50年や21世紀を迎える節目をとらえ、県内の歴史を振り返る企画に取り組んできたが、戦後70年はこれまで以上に「時代の節目」という意味合いが強くなっていると感じていた。それは戦争体験者が高齢化し、記憶を継承する最後の機会になるかもしれず、政治的にも社会的にも「戦後の終わり」という時代認識が広がりつつあったからである。

 こうした状況下、戦後70年報道は「8月ジャーナリズム」に代表される一時的な報道ではなく、年間を通し多角的な展開が必要と考え、「記憶の記録化」「記録の掘り起こし」「現代につながる時代の源流をたどる」という三つをテーマに据えた。

 戦争を語るときどうしても激しい戦闘や無惨さ、犠牲になった方々の無念さ、残された遺族の苦しみなどの話が主流となってきた。それはそれで重要な記憶として記録したが、一方でこれまでは、語られることが少なかった戦時下の何気ない日常もしっかり残したいと考えた。

 満足いく取材ができたか自信はないが、終戦後も中国に残され中国人兵士の看護活動に当たったり、物資不足のため有田で焼き物の貨幣が作られていた秘話なども語られた。また、太平洋戦争の口火を切ったマレー半島の奇襲作戦や、日中戦争開戦時の陸軍相・杉山元に面会した証言など、歴史の教科書に登場するような出来事に、私たちの身近な人々が立ち会っていたという事実に、あらためて驚かされた。

 連載取材は当初、記者のつてが頼りだったが、回を重ねるにつれ、編集局には戦争体験をつづった手記が数多く寄せられるようになった。70年という歳月がそうさせたのかもしれない。それまでは「自分の中にとどめ、墓場まで持っていこう」と決めていた人も多かったはずだ。そこには体験をひもとくことで自らはもちろん、犠牲になった人たちの思いを記憶にとどめ、不戦の誓いをつなげていこうという切実な思いが伝わってきた。自らをさらけ出し語っていただいた70人のみなさん、本当にありがとうございました。

 昨年8月に出された内閣総理大臣談話で安倍晋三首相は、こう呼び掛けている。「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。しかし、それでもなお、私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません。謙虚な気持ちで、過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任があります」。佐賀県内で掘り起こした記憶が、こうした思いを引き継ぐ一助になれば幸いである。(編集局長 澤野善文)

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 「刻む 佐賀・戦時下の記憶」 A5判、515ページで1200円(税抜き)。佐賀県内の主要書店で販売、問い合わせは佐賀新聞プランニング編集部、電話0952(28)2152。

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