金塊を運んだ小型船を調べる捜査員ら。網を巻き上げる機械は取り付けられていなかった=1日、唐津市鎮西町の名護屋漁港

■主犯格「漁船購入頼まれた」

 唐津市の港に多量の金塊が密輸され、小型船の船長ら9人が関税法違反(無許可輸入)容疑で逮捕された事件で、主犯格とみられる山崎竹助容疑者(66)=青森県むつ市=が親族に「中国人に漁船を買うよう頼まれた」と話していたことが7日、分かった。中国人3人が逮捕されており、捜査当局は中国の密売組織の関与も視野に背後関係を調べている。

 捜査関係者によると、山崎容疑者は親族に、ことし春ごろ「マグロを釣りたいから船を買ってほしいと中国人から頼まれた。自分が漁をするわけではない」と明かしていた。

 船は青森県大間町の漁協に所属していたが、所有者の死亡後、昨年7月に岩手県の船舶販売会社が購入。8月に船長の斎藤靖昭容疑者(49)=長崎県壱岐市=へ売った。

 販売会社の関係者によると、斎藤容疑者は購入時「マグロ漁に使いたい」と説明。だが9~10月に同社が船を修理した際、漁に必要な網を巻き上げる機械が取り外されていたという。

 船は昨年11月、青森県・下北半島沖で座礁事故を起こした。八戸海上保安部によると、斎藤容疑者は「試運転中だった。今後、漁船として登録する」と話していた。

■捜査網逃れ洋上取引 金塊刻印消し闇ルートか

 唐津市鎮西町の名護屋漁港で起きた金塊密輸事件で、容疑者8人が逮捕されて8日で1週間。主犯格とみられる男1人が新たに逮捕され、中国の密売組織が関与した疑いも強まっているが、容疑者の接点や金塊の国内での流通ルートなど全容はまだ見えてこない。

 「あの逮捕は昨日、今日の捜査ではできない。準備はした」。捜査関係者は長期の内偵捜査を続けてきた経過を言葉ににじませた。

 事件は5月31日に起きた。斎藤靖昭容疑者(49)=長崎県壱岐市=ら5人が乗る小型船「第三十六旭丸」(19トン)が積み荷を陸揚げし、待機していた3人が受け取ったところを捜査員が確保。翌6月1日、全員が関税法違反(無許可輸入)容疑で逮捕された。

 事前に海上取引の情報を得ていた海保と警察、税関が合同で捜査をしていた。海上保安庁は、公海上で小型船と別の船が接触したことをレーダーで確認している。洋上で荷を受け渡す「瀬取り」と呼ばれる手口で取引をしたとみている。

 逮捕された日本人6人の住所は、主犯格とみられる山崎竹助容疑者(66)を含め、青森県が最も多い3人。斎藤容疑者の住所も昨年時点では青森県むつ市で、青森が一定の拠点になっていたことがうかがえる。ただ、計画段階で宮城や東京、さらには3人の中国人容疑者とどうつながっていったのかは不明だ。

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 金塊の密輸事件は航空機で持ち込む手口がほとんどで、海路は極めて少ない。福岡市で金塊を巡る事件が相次ぎ、警戒が強まる中、洋上取引がしやすい小型船で捜査の網をかいくぐろうとした可能性がある。

 小型船による洋上取引は薬物の密輸でよく使われてきた手口だ。海保関係者によると、小型船は大型船に比べてレーダーで捉えにくく、沖に行くほど動きを把握するのが難しくなる。また、日本の漁船の海産物は税関を通す必要がないため、漁船を装ったり悪用したりして小さな港で陸揚げするケースがあるという。

 陸揚げ地として狙われた名護屋漁港は、佐賀県内に5カ所ある県管理漁港の一つで、唐津市管理の漁港と異なり、地元以外の漁船も届け出なしで自由に入港できる。漁港近くに住む80代女性は「(同じ県管理漁港の)呼子漁港に比べて湾が長くて接岸場所がたくさんあって、人けもないので狙われたのでは」とみる。

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 押収された金塊は重さ約1キロの延べ板で206枚。金塊には通常、精錬業者や製造番号を示す刻印があるが、大半に消されたような跡があった。捜査当局は入手先を特定できないようにするためとみている。

 佐賀県内の貴金属取扱業者によると、金塊の刻印は「品質保証書」の役割を果たし、刻印がないものは市場では敬遠されるという。「売買をやっているところに持ち込んでも必ず精錬分析に出すから即日取引はできない。だから、いわく付きの金塊が持ち込まれることはないし、別の場所で流通するのではないか」と闇ルートの存在を示唆する。

 捜査関係者は「闇でしか使えない形のままにしておくとは考えにくい」と指摘し、別の協力者がいないか調べている。

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