偽のニュースを意味する「フェイクニュース」の拡散が、米国などで社会問題を引き起こしている。昨年の米大統領選では有権者心理に影響した可能性が指摘され、IT大手も対策に重い腰を上げ始めた。トランプ大統領は敵対するメディアを「フェイクニュース」と呼んで攻撃するが、逆に既存メディアの再評価にもつながっているようだ。

■簡単だ

 CNNテレビやニューヨーク・タイムズ紙など大手メディアに「おまえはフェイクニュースだ」と食ってかかるトランプ氏。しかし大方の予想を覆したトランプ氏の大統領選勝利も、偽ニュースが一役果たしたとの見方がくすぶっている。

 「ローマ法王がトランプ氏支持を表明」「クリントン氏が『イスラム国』(IS)に武器売却」。大統領選中のこうした発信元不明のニュースは、民主党候補のクリントン氏に不利な内容が多かったとされる。

 「オハイオ州の倉庫で不正な『クリントン票』用紙数万枚発見」との速報もその一つ。ニューヨーク・タイムズは、このニュースを創作した23歳の男性の話を実名で報じた。劣勢だったトランプ氏の支持者が喜ぶニュースを流せば、閲覧者が増えて広告収入が入ると考え、偽のニュースサイトを開設したという。

 この記事は瞬く間にネット空間に広がり、わずか数日で5千ドル(約56万円)の収入が転がり込んだ。「驚いた。こんな簡単にみんな信じるなんて。社会学の実験のようだった」

■事件に発展

 フェイクニュースの影響が関心を集めたのは、首都ワシントンのピザ店に男が押し入り、発砲した昨年12月の事件だ。逮捕された男は、この店を「小児性愛者組織の拠点」と報じた偽記事を読み、調べるために乗り込んだと語った。

 パキスタンでは昨年12月、フェイクニュースに反応した国防相がイスラエルへの核攻撃を警告する騒ぎがあった。クラッパー前米国家情報長官は、ロシアがサイバー攻撃だけでなくフェイクニュースも流していると証言、国家安全保障にも関わる問題となりつつある。

 偽記事は主に交流サイトを通じて広がる。交流サイトでニュースを読む人は近年急増。昨春のピュー・リサーチ・センターの調査では、最大手フェイスブックで記事を読む米国人は66%に上る。

■購読者急増

 偽記事の影響を否定していたフェイスブックのザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)も批判の高まりを受け、社外機関が「虚偽」と認定した記事に印を付けるなどの対策に乗り出した。

 「サイバー空間が不正確で偏った情報であふれないよう、大きな役目を果たさなければならないことをIT大手が自覚し始めた」。ジャーナリズムの研究教育機関「ポインター研究所」で偽記事対策を担当するアレクシオス・マンザリス氏は指摘する。

 一方で息を吹き返しつつあるのが既存メディアだ。昨年10~12月のニューヨーク・タイムズ有料電子版の契約者は27万6千人増え、四半期最大の伸びを記録。政権と対立する同紙への支援とみられているが、ロサンゼルス・タイムズなど他紙も軒並み購読者が増えた。

 ニューヨーク・タイムズのディーン・バケー編集主幹は、理由の一つにフェイクニュースの拡散を挙げ「求められているのは、信頼できる私たちの記事だ」と強調した。(ニューヨーク共同=本蔵一茂)

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