■「すぐ逃げる」住民の本音 県内首長、受け入れに不安

 原発で重大事故が発生した場合、住民の命を守るのが避難計画になる。

 玄海原発周辺の広域的な避難計画となる「玄海地域の緊急時対応」は昨年12月、政府の原子力防災会議で了承された。議長の安倍晋三首相は「国民の生命や財産を守るのは政府の重大な責務」と明言した。

 福島第1原発事故以降、原子力防災に関する方針が見直され、原発から半径5キロ圏(PAZ)と同5~30キロ圏(UPZ)の自治体に、避難計画の策定が義務付けられた。対象住民は佐賀、福岡、長崎3県で計26万2826人。佐賀県内はPAZが玄海町と唐津市で8126人、伊万里市も加わるUPZは17万9503人で、計18万7629人に上る。

 計画では事故時、住民は一斉に避難するのではなく、原発の状態や原発からの距離に応じて段階的に避難する前提になっている。PAZは放射性物質の放出前に避難を始め、UPZではまず屋内にとどまり、周辺で放射性物質を計測して放出が確認された地域が、国の指示で避難する。

 放射性ヨウ素の甲状腺への取り込みを抑える効果が期待できる「安定ヨウ素剤」は、PAZの住民には事前配布され、避難時に服用する。UPZの住民分は備蓄し、避難が必要になれば国の指示で集合場所や避難経路上の施設などで配られ、服用する。市民団体はUPZの住民にも事前配布を求めている。

 計画に対し、県民や県内首長からは不安や実効性を問う声が上がる。「事故になれば、すぐに逃げるのが住民の本音」と、段階的避難の前提自体を疑問視する意見は根強い。昨年4月の熊本地震では連続した大規模地震で家屋が倒壊しており、「屋内退避ができない場合にどうするのか」との懸念もある。避難先や経路など「全住民が理解しているとは思えない」と周知不足を指摘する声もある。

 佐賀新聞が実施した首長アンケートでは、県内8市町が避難計画に「不満」と答えた。30キロ圏の住民は地区ごとに17市町の公共施設などが避難先として割り当てられているものの、受け入れの不安が表面化した。福島の原発事故では半径30キロ以上の地域でも避難を余儀なくされており、受け入れ市町が自らの住民を避難させる計画は必要ないのか、疑問を投げ掛けた。

 30キロ圏内には、全国の原発周辺で最も多い17の離島があり、避難が海路か空路に限定される課題や、要援護者への対応にも不安の声が漏れる。

 交通を権利の観点から研究する交通権学会会長の上岡直見法政大非常勤講師は「放射性物質が飛散する状況でバスの乗務員を手配できるのか」「要援護者を介護する職員の支援対策が不明」など具体的に問題点を挙げる。「計画を試行しながら改善すれば足りるとの方針では、有事の際に期待できない」と指摘する。

 山口祥義知事は9日、山本公一原子力防災担当相との面談で「事故は計画通りに起こらないという覚悟が必要」と、不断に見直す姿勢を強調した。記者団に対し、さらなる周知に取り組む考えを示したほか、渋滞への対応も検討を進めるとしている。

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