「こんな夢を見た」と書き出す夏目漱石の『夢十夜』。他人の夢の話はとりとめもなくて閉口しがちだが、そこは文豪。10編の夢はどれも、背筋がすっと寒くなるような緊張感に満ちている◆一つ目の夢。腕組みをして枕元に座っていると、寝ている女が「もう死にます」と宣言する。「百年、私の墓の傍(そば)に坐(すわ)って待っていて下さい。きっと逢(あ)いに来ますから」と言い残して◆この女さながらに、没後100年だった昨年、漱石はアンドロイドになってよみがえった。少年時代に通った漢学塾だった二松学舎大(東京)が、大阪大の石黒浩教授らの協力で制作した。デスマスクから顔を再現し、孫の夏目房之介さんの声から人工音声を。今年は高校などで教壇に立つ◆実は漱石先生、ツイッターでは何年も前から“つぶやき”続けている。「恐れてはいけません。暗いものをじっと見つめて、その中から、あなたの参考になるものをおつかみなさい」といった具合に。登録しておいた言葉を発するBOT(ボット)というソフトだ。ファンがそれぞれに好きな言葉を選び、何人もの漱石が存在する◆夢十夜の続き。女の死後、苔(こけ)に座って待ち続けると、石の下から茎が伸びてきて真っ白なユリの花が開く。「百年はもう来ていたんだな」-。その姿を変えて生きる。きょうは漱石生誕150年。(史)

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