昨年の米大統領選を巡るトランプ大統領陣営とロシアの接触に関する疑惑が新展開を見せた。コミー前連邦捜査局(FBI)長官が、議会証言のための声明文で、疑惑の中心にいたフリン前大統領補佐官の捜査を中止するようトランプ氏から圧力を受けた、と明言した。事実とすれば、明白な司法妨害であり、トランプ氏に対する批判がさらに強まることになる。

 トランプ氏は政権内の対立や民主党の反発で多くの高官を任命できず、重要政策を作成できない上に、パリ協定離脱など国際社会に背を向ける姿勢で混乱を起こしている。ロシア疑惑に関する司法妨害の疑いがでてきたことで、一層の空転が懸念される。混乱を早く収拾するために、トランプ氏はロシア疑惑を担当する特別検察官の捜査に正直に協力すべきだ。

 コミー氏の声明は、トランプ氏からフリン氏の捜査を「諦めるよう」要請され、また自らがロシア疑惑の捜査対象でないことを公表するよう求められ、そしてトランプ氏への「忠誠心」を要求された、という内容だ。権力を盾にしたFBIへの干渉であり、米国の民主主義原則を否定する性格を帯びる。コミー氏はそうした要請を受け入れず、解任された。

 トランプ氏は不動産やカジノビジネスで成功した企業トップの感覚で、部下に自分の意向を気軽に命じて服従させようとしたのだろうが、行政府のトップとしての自覚が足りなかった。

 トランプ氏は「忠誠心」をはき違えている。FBIはその使命を「米国民を守り、憲法を支える」と宣言している。FBI長官は大統領に任命されるが、いったん職に就いたら、忠誠心は大統領個人ではなく、「米国民と憲法」に向けられる。こうして米国司法の独立性、三権分立は確保されている。トランプ氏のコミー氏への言動は民主主義の基本原則や米憲法について理解が危ういことを浮き彫りにした。

 過去の大統領弾劾案件を振り返れば、ニクソン大統領が弾劾訴追の手前で辞任を余儀なくされたウォーターゲート事件も、クリントン大統領が弾劾訴追された不倫もみ消し疑惑も、ともにもみ消し、偽証、司法妨害など司法と大統領の関係を巡ってである。疑惑を封じ込めようとした強権的行動が守るべき原則を破り、弾劾問題に発展するというパターンだ。ロシア疑惑も同じ展開であり、予断を許さない。

 ロシア疑惑ではトランプ氏や選挙陣営がロシアと共謀して、対抗馬のクリントン候補をおとしめる工作を行ったとの証拠は出ていない。しかし腹心のクシュナー上級顧問が捜査対象として浮上したほか、トランプ氏との関係が冷却化したセッションズ司法長官の辞任が取り沙汰され、ホワイトハウス広報部長が辞任するなど、混乱は危機的状況だ。

 トランプ氏が国家の分断を修復し着実に政策を遂行すれば、最低レベルの支持率が向上し、ロシア疑惑も沈静化するだろう。しかし、民主党やリベラル派、メディア、そして司法当局までも敵視し、過激な保守派の支持を固めるだけに見える今の手法では、格差是正をはじめ公約とした重要政策を実現できずに国民の気持ちは離れる一方だ。

 政権立て直しの第一歩は、モラー特別検察官の捜査への全面協力で信頼を回復することである。(共同通信・杉田弘毅)

このエントリーをはてなブックマークに追加